立つ場所
★★★★☆
尊氏が幕府を開き、師直を矢面に立たせて対立させ、
弟の直義と袂を分けてしまう。
尊氏が、弟も臣下の師直も失い、天下の中にいる。
その場所が、心地よかったのか、虚しかったのか、
それでも尊氏は戦いの中で生き、死んでいった。
尊氏の生き方、道誉の生き方は、
それぞれ自分の心に忠実で、男気を感じた。
生きるとは、なんだろう?と普段よく考えるのだけれど、
この本からもそういうことを感じた。
生きていく中で、音楽と芸能は、いつの時代にも
癒しなのだなと感じた。
無情な気持ちも、音楽や芸によって癒され慰められる、
そんな気持ちになった。
(2009.8.23読)
ラストがいい
★★★★★
あまり北方氏の作品が好きなわけではない。だが、氏の南北朝ものは、ついつい読んでしまう。 個人的に南北朝が好きなことと、この時代を描いた作品が少ないことは、もちろん小さからぬ理由ではあるが、なんというか、氏のドライな文体が、南北朝時代という時代に合っているのかもしれない。 この作品では、絶妙な距離感で足利尊氏の姿を追い続ける道誉のスタンスがいい。 ラストまで至ったとき、静かな興奮を覚えた。 佐々木道誉という人物を、単なるトリックスターと位置づけることなく描いたという一点において、北方氏は吉川英治を凌いだのではないか。
道誉って誰?
★★★★☆
佐々木道誉、と聞いて、すぐにピンとくる人はかなりの歴史通なのだろう。
はじめて北方謙三氏の「道誉なり」を読むまで、このような人物が足利尊氏と同じ時代に生きていたことすら知らなかった。
氏の筆は、そんななじみの薄い、歴史教科書にも名前が載らないような一人の漢の生き様を見せて(魅せて?)くれた。己のルールを貫いきながら、時代の中に生きる一人の漢として。
それは、あたかも激しい濁流にあらがって立つ一本の棒杭のように、潔い。
この作品もまた、氏の簡潔な文体が道誉の魅力を最大限に引き出している