一風変わった書だが,引き込まれる
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本書は,4章立てになっているのだが,4章それぞれの内容が全く毛色が違っていて,一風変わった書であるが,面白い.
まず,1章は,著者の今までの古生物・現生生物の研究の経験談が活き活きと描かれていて楽しい.特に,研究の方法としては,仮説を立て,それを立証するために色々と工夫をして研究している様子がよく目に浮かぶ.古生物学は,決して「発見の学問」ではないということがよく理解できる内容になっている.エッセイ風ではあるが,被食−捕食関係などの知識が厳密に身に付き,勉強になる内容になっている.
2章は打って変わって,厳密な棘皮動物(特にウミユリ)の生物学的特性や特徴,ボディープランの解説となっている.私自身は,知らないことだらけだったので勉強になった.棘皮動物とは,面白い動物だなというのが感想である.
3章は,一番教科書的な内容になっているが,地質時代の大きなイベントに絞って解説されているので飽きない.また,古生物学を研究する身であれば,最低限これ位の知識がないといけないというような内容になっているが,私自身には目からウロコの内容が多くあり,非常に勉強になった.と同時に,自分自身の不勉強さを反省させられた.
そして,何と言っても,著者のオリジナリティーが一番よく表れているのが4章である.4章自体は短いが,著者の魂のこもった研究哲学が,謙虚に熱く書かれている.私自身は,古生物学において,地味ではあるけれども重要な仕事(生層序学や記載・分類学など)が,昨今軽視されている現状に不満を抱いていたので,著者の主張に諸手を挙げて賛成である.これ以上書くとネタばれになってしまって内容を詳しくは書くことはできないけれども,著者の主張一つ一つがどれも的を射ていて(少なくとも,私には賛成できる主張ばかりである),古生物学を専攻する若手研究者に是非読んでもらいたい.
1章から4章まで,どれをとっても非常にユニークな内容になっていて,星5つである.
Lilies of fortune
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日本古生物学会主催のシンポジウム『生きている化石』で発表された内容を起点に,著者のライフワークであるウミユリの進化,生態学を紹介した力作です.正直に告白すると,ウミユリは化石の世界だけに登場する古生物と誤解していました.カンブリア紀,古生代,中生代と繰り返し起きた大量絶滅によっても種が途絶えることなく,大きな形態的変異を遂げることもなく現生動物として生き残った奇跡的な棘皮動物であると知り驚きました.
この本の序章では,著者の大学院時代に陸中海岸にある中生代白亜紀の地層をフィールドに海洋無脊椎動物の化石群の研究をスタートさせ,ウミユリを研究テーマに選んだいきさつから語られています.他の無脊椎動物群に比べて競合する研究者の数が乏しく,未開拓な分野をテーマに選んだのは幸運でしたが,それを比較生物学,古生物進化の対象として発展深化させたのは著者自身の不断の努力の結晶でしょう.
ウミユリは中生代まで亜熱帯域の大陸棚で捕食者の脅威に曝されることなく,静かな進化を遂げてきたそうです.進化の過程で被食者として生き延びるための自切再生のメカニズムを会得し,彼らが最後に安息の地として選んだのが深海の底生生物としての生き方でした.本書では現生のウミユリとの比較形態や比較生態の追及に基づいて,古生物としてのウミユリの進化や生態を明らかにするプロセスが丁寧に紹介されています.個人的には,貝類とカニ類の捕食-被食関係から間接的にウミユリの古生態の変化を明らかにしている過程に興味を惹かれました.現生の棘皮動物ウニやナマコは最も横暴な陸生捕食者であるヒトの餌食になりながら浅海域で細々と生き続けています.棘皮動物5綱の中で最も原始的なウミユリは,深海をnicheとしたことで地球の歴史とともに永遠に種として生き残るのではないかと思いました.
この書物の中には詳しく紹介されてはいませんが,この本が完成するまでの10年は著者らの研究グループにとって有柄ウミユリの発生生物学に関する画期的な研究の進展があった時期でもあります.この期間,著者自身が研究に没頭しており,このような啓蒙書を書いている余裕や進化学に関する文献を渉猟する余裕がなかったことが想像されます.本書の完成まで10年以上を要したことを,敢えて「筆不精」のためと遠慮がちに語っている点が奥ゆかしいところです.著者の研究の今後の発展を期待したいと思います.
今年読んだ本で一番ためになった本
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表紙の絵は、ウミユリという海の生物。
そのなんだかミステリアスな「ウミユリ」がこの本の全体を通じてナビゲーターのような役割をもっている。
「ウミユリ」という生物が実に興味深いので、いつの間にかひきこまれる。
ウミユリ化石について学んでいくうちに、地球の成り立ちが理解できてくる、という感じ。
古生物学の教科書としても使える内容でありながら、とてもわかりやすい。
「フィールド」とタイトルにある通り、野外での化石採集の楽しさも臨場感豊かに伝わってくる。
これから生物学、生態学を専攻しようというひとも、地球の成り立ちを学ぶことは大切かと思う。
古生態を知ることで、今地球上で起こっている現象が浮き彫りになってくるのも楽しい。
絶対おススメの一冊。