最も的確に電子化する社会と文学との関係性について書かれた1冊
★★★★★
新進気鋭の文芸批評家である著者の第2作目。
本書の前半部では、今大きな問題となっているグーグルが無断で書籍を電子化している一連の騒動をとりあげ、それを期に勃発したといっても過言ではない「本を紙で読むこととディスプレイで読むことの違い」ということについて本質的に、的確にまとめられています。こんなにネット上では様々な発言がされているのにもかかわらず、ある意味当たり前のことしか言っていない著者ほどきちんと問題点を整理して、状況を把握しこれからの流れを文章に出来ているひとはいないと思います。
後半は、平野啓一郎や大江健三郎といった作家をとりあげて論を展開していきます。一見前半と後半は関係ないように思えますが、そこには一本の軸が通っていて、紙の本が滅びる=文字が電子化される中で文章を読む時代というテーマが根底に流れています。つまり本書は一見出版論にや読書論に見えるタイトルながら、やはり文芸批評家、誰よりも真剣に急速にかわりつつある我々の社会の中で文学を読むこと・書くことについて批評していこうという気概が見られます。
社会学的な観点からの批評が横溢する現在ですが、ある意味社会が大きく変わっている状況で社会学的な視点で物を述べると言うことは安易とも言え、その点本書の著者はこれまでの文芸批評の枠を広げるような形で、新しい挑戦をされているように思え好感が持てました。
欲をいうのならば、慎重に紡がれて長くなる文章をもう少し短くして読みやすくして欲しい。しかしこれも文芸批評という名の読み物の特質ではあるのですが。
追記:
重版の刷りによって内容が変わっている部分があるそうな。どれくらいの変更かは分かりませんが、「ネット」上の無限のアップデートが可能な形態と、ある時点で思考を固着させる効用のある「本」の形態の対立を、わざわざ無効化させるその意図は……? 気になりますがわざわざもう一度購入する気にはなりません。