シリーズの山場を形成する作品の一つ
★★★★★
私自身はこのGからIにかけての3作がこのシリーズの山場を作っていると感じている。そのくらいこの作品はこれからの展開をよりいっそう楽しみにさせるような秀作に仕上がっているのだ。
今回の依頼人は行方不明の母を捜して欲しいという中年の女性。同時に過去の事件の犯人が逆恨みして殺し屋を雇い、彼女自身もその標的にされた。つまりこの作品では依頼人からの事件と、自分を狙う殺し屋という二つの事件が同時に進んでいくことになる。
そして単純に思えた人探しもどんどん複雑になっていき、殺し屋に襲撃された結果、別の私立探偵が彼女を常時護衛することにもなる、というようにこの二つの事件自体も更に展開して発展していくのだ。
一方人物に対する描写もとても深く丁寧で、砂漠地帯の不毛な人々の暮らし、奇怪な老女の悲哀と秘密、そこに命を狙われる恐怖、護衛の私立探偵との交流と確執等がバランスよく組み込まれていく。
こういったいくつもの出来事が重なり合っていくが、決してバラバラにならないのは作者の力量のせいだろう。これらを全て繋ぎ合わせて最後まで緊張感を持っていくのには、感心するほかない。前作Fはちょっと物足りなかったが、これはそれを埋め合わせても足りるほどの意欲作。ともかく最高に楽しめるミステリーに仕上がっている。