ブラッセル出身のユルスナルにとっては、より肌が近い時代と風物を対象としたせいか、触感に訴えてくるような、生々しい表現が散見します。ブリュージュなどに現存する古建築や当時の記録、文書、絵画などを参考にできる点では古代ローマの比ではないということもあるでしょう。バルトロメオ=カンパヌス、や修道院長もなかなか魅力的なキャラクターです。
しかし、この本では「ハドリアヌス帝の回想」のような主人公に魅せられるというより、16世紀のブリュージュにタイムスリップしたような感じを堪能しました。
この本の主人公はゼノンではなく、ブリュージュではないでしょうか?