去りゆく祖母と、祖母のくにへのオマージュ
★★★★★
フィールドの日本論で印象的なのは、彼女の示すこのくにと文化への愛着の確かさだ。ともすれば安易なナショナリズムに陥る危険を慎重に避けつつ、著者は論を進めようとする。(写真家、土門拳の仕事に割かれたページでは、著者は土門の作品に強い魅惑を感じつつ、それを「日本民族」に直に結び付けることに、抵抗しようとする。)自分の家族史を日本の戦後史に重ねつつ、著者はこのくにが経済発展の傍らで、置き去りにしてしまったものを回想してゆく。
そうしてもう一つ。これは愛する者が、老いと病によって様々な身体機能や精神の働きを失ってゆき、断片化してゆくさま、そしてついには死に至るさまを世話し、看取る物語でもある。2度の脳出血を経て徐々に意思疎通ができなくなってゆくなかで、それでも祖母が著者の問いに答えた思わぬ言葉(日本版の書名になっている)は、彼女が病を得なかったら、発さなかった言葉かもしれない。それはやはり、ひとつの僥倖なのだろう。著者はそうした記憶を、祖母への感謝とともにモニュメントとして残した。それが過去として風化することに抗しつつ。そして巻末にそっと置かれた、若かりし日の祖母の写真は息をのむほどに美しい。推薦します。