希望学ことはじめ
★★★★★
「現在には希望がない」といわれる。
私たちが普段、希望について考えるのは、個人のものであったり、何か目の前が明るくなるような
ものであることが多いように思う。
この「希望学〔1〕希望を語る-社会科学の新たな地平へ-」は、文字通り希望を考察した本なの
だが、1人1人の先生方の文章から、希望のもつさまざまな側面や、考える上でのキーワードが
浮かんでくる。
1章ごとの語り口の違いと、全体を通してみたときの書物としてのおもしろさは、味わい深い
ものがある。
まさに、希望の幕開けにふさわしい本といえるだろう。
「希望」をともに見、語り出すこと
★★★★☆
「希望」は、ふつう、個人の「心理」とか「内面」の問題なんだ、と考えられている(…と「希望学」では考える)。それはたしかにそうで、「希望は『個人』の希望から、はじまる」(広渡、p.26)。また、それは、「具体的な何を実現しようとする願い」と定義されたりもする(スウェッドバーグ、p.61)。でも、「希望学」は、それを、さらに、「社会」の問題としても捉えなおそうとしている。つまり、それは、「社会の希望としての共同表象に展開しうる」し(広渡、p.26)、「“具体的な何か”との結合を通じて社会的な要素と確実につながっている」(スウェッドバーグ、p.63)。
本書では、そういう眺めを共有する/しようとする研究者たちが、それぞれ「希望」について語る(ゆえに、1巻のテーマは「希望を語る」だ)。そこでの各人の関心や、主張は、必ずしも一致していないようにみえる。しかし、にもかかわらず(あるいは、だからこそ)、「希望」をめぐる風景が立体的に見えてくるように思われた。つまり、「希望」は、多様に語られうる。
何事かを、ともに見ること。そして、それについて、語り出してみること。そのことは、対象の細かい部分を焦点化することだ。それがいくつも重なると、おそらくは、さらなる語りを誘発する。ダイアローグとしての学問の可能性がここにはある。
だから、ぼくも、その誘いに乗って、ひとつ、特に気になったことを書き留めておきたい。すなわち、“生成”ないし“発生”について。「希望」は、いつ、どこで、どのようにして生まれるのか。
たしかに、本書では、希望の特徴が種々述べられ、その生成についても、まったく触れられていないわけではない。たとえば、「物語」や「時間」のように、希望の成立に必要な概念やものについては、さまざまに語られている。希望は、それらの配置のなかではじめて生成するものだろう。
しかし、本書所収の多くの論考で希望の消滅や危機については多く語られていても、希望の生成については、いまだ主題的には語りだされていないように思う。もちろん、生成には消滅が、発生には死が、過程として一続きになっているはずだ。希望のライフサイクルをみてみたい。
あるいは、続く巻で、釜石のライフヒストリーに寄り添うように、そのことが扱われるのかも知れない。そこでは、研究者だけでなく、釜石で暮らす人びとの声も響いてくるはすだ。異質な語りが、たがいに複雑に結合しながら発達する希望学の語りを、これからも注目していきたい。希望学は、そのことがすでに希望であるといいと思った。
希望は永遠です
★★★★★
読了。改めて個と社会・組織との関わりについて改めて考えさせられました。希望学の問いかけは社会科学にとってもそうであるように、社会の中で生きる人々にとっても挑戦的でそしてとても示唆的な試みです。個人が社会との関わりの中で自己責任、自己完結を求められ、個の中に閉塞する(させられる)時代に、我々社会人が、考えないまま流されるのか、あるいは立ち止まって考え行動に移すのか問われていると思う。まずは立ち止って考え、小さなことから行動に移してみたい。そこから職場や地域や社会の閉塞を取り除くヒントと実践が生まれると思う。そして、それは常に試行錯誤されながら希望を取り巻く環境を考えながら永続的な運動として実行に移されることが、学者にとっても社会人にとっても大切な宿題なのだろう。本当に経済社会の中で流されながら個と組織の閉塞を感じている人にお薦めの一冊です。
子育てにも役立つ「希望学」
★★★★★
「希望」。。。誰もが使う言葉だが、いざ語ろうと思うととても難しい。そんな「希望」を様々な学問から論じ、釜石のフィールドワークを通して、その本質に迫ろうとは、なんて斬新な試みなんだろう!?と最初驚きました。
戦後の高度成長期以降「希望」はタダだと思っていた中年も、希望がなかなか持てずに苦しんでいる若人も、改めてこれからの自分のために、社会のために、この本をじっくり読むと、新たな視点が生まれると思います。そして、子どもを持つ保護者の方には特にお勧めしたいです。適切な希望を持てる人間に育てるためにはどんな経験が必要なのか、この「1」だけでもヒントにあふれています。
一番素晴らしいな〜と思うのは、この本の根底に流れている「人」に対する暖かい視線です。
実践の科学 希望学
★★★★★
歴史を振り返り、世界を見渡せば、いまの日本だけが特別絶望的な状況に置かれている訳ではない。しかし、経済的、科学的な発展の割には、多くの人が生きる力となる「希望」を失い、社会としても「希望」を持てる将来像を見失っていることは否めず、深刻な様相を呈していることは事実だ。
それゆえ、あらゆるところで「希望」が語られているが、その「希望」の持つ意味は極めて多義的で、「希望」を得るための方法論・実践論も曖昧である。
だからこそ、社会科学として「希望を語る」ことの重要性がある。まだ緒についたばかりとは言え、一つ一つの論考は極めて示唆深い。「希望」の定義づけ等を通じて、「フィクション」であり「パラドキシカル」であり「両義的」な「希望」の実相が見えてくる。
「希望」は人と人とのコミュニケーションからしかはじまらない。その意味で、「希望学」は、社会として「希望を語る」上での座標軸になり、「個人の希望」、「社会の希望」を持つための実践的な道しるべになる。
専門書ではあるが、専門家でなくてもわかりやすい。必死に「希望」を考え、「希望を語る」人であれば、大いに参考になる良書だと思う。2巻以降にも期待したい。