上杉景勝とは何だったのか?その5
★★★★☆
上巻では、秀吉との関わりのなかで、実直な景勝・怜悧な兼続の人物と、秀吉との出会いによって変わってゆく上杉主従の関係が書かれていました。
下巻では、秀吉の死により、覇権争いという形で浮かび上がる「天下」と、「天下」に対する上杉主従の意思の違いが描かれます。
最初から最後まで、「越後上杉家の武人」として生きる景勝と、景勝の側近として在りながら、「天下」を見てしまう兼続。
当然の帰結として兼続は
「殿に天下を」
と思う訳ですが、景勝の方は
「何を云ってる、俺が天下人の面か」
と一蹴する。
「越後人の口の堅さよ」
同じく聡明な石田三成の口から兼続を揶揄した言葉ですが、天下を夢見ながら、「越後の一武人」として終わろうという主の心に叛けない兼続は、関ヶ原の後京に散った三成にすれば、やはり「越後人」だったのかもしれないと、思いました。
直江兼継と忍者
★★★★☆
童門冬二氏「直江兼継」ほど面白くなかった。兼継と忍者(草の者)を主に描いているが、両者の関係がそれほど親密さを感じないせいか独立的存在記述が多い。敵に対する諜報活動もいまひとつ。歴史小説220作品目の感想。2010/01/14
それぞれの「義」
★★★★☆
本書は秀吉亡き後の徳川気運の趨勢に迎合することを拒み「義」を貫いた景勝・兼続主従と三成の三者を中心に展開していく作品(全二巻)です。
謙信公以来の家風を尊重しながらも最後には「景勝を天下人に」と望んだ兼続、豊臣政権の後顧の憂いを取り除く為に家康に挑んだ三成、反徳川の気概を示しながらも追撃を許さなかった景勝。
三者は「家康」という共通の敵を見据えつつも当然ながらその目的には差異が生じていくのです。
主に兼続の情報網として登場する忍者集団は物語を円滑にするだけではなく戦国時代の裏の争闘を鮮やかに演出しています。
また時折叙述される歴史背景も解りやすく説明されています。
関ヶ原の戦いに至るまでの経緯をより詳細に知りたい方にはお勧めの一冊です。
視点を変えると、また、これよろし。。。。
★★★★★
大河ドラマ「天地人」の影響で、上杉景勝、直江兼継関連の小説を読みたくて、この小説を手にしました。
(原作の「天地人」はアマゾンのユーザーレビューが悲惨な内容でしたので、実力作家藤沢周平先生のこの「密謀」を選択しました)
これまで私は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康側からみた戦国時代の小説を読み漁りました。
今回、中央政界からの視点ではなく、地方代表である上杉家から見た戦国最後の時代について
興味強く読むことができました。
信長、秀吉、家康 とも天下人に足る大人物であり、彼らの事が書かれた小説はとても痛快で
あり、心がわくわくすることは確かですが、やはり 天下人となるからには、裏切り、虐殺、権謀術数等、「義」からは遠く離れた部分も当然あり、人間としてどうだろう? というところがありました。
景勝は、
謙信公が打ち立てた家訓「義」を重んじた事、
また、
自分は権謀術数、裏取引等の腹黒い政治的な動きは出来ない。よって、天下を取る器量がない
という認識を持ち、最終的に中央政界に対しての戦いをやめ、関ヶ原の戦いにも出陣しなかった。
人間味がある大将であると思いました。
しかし、
兼継の意見を尊重し、関ヶ原に戻った家康を追撃していたらどうなっていたのか と、
どうしても思ってしまうのは、私だけでしょうか?
関ヶ原以降、上杉家は減封され小国にされてしまいますが、お家取りつぶしにならなかった分、景勝は正しい判断をしたという事なのでしょう。
自分たちの価値観と、その価値観の中で最善の策はどれかという事を1つ1つ考え、その都度判断し、その判断が自分たちのお家の継続に直結する時代の厳しさをまざまざと知りえた小説でした。
ちょっと違った視点からみた戦国時代最後のドラマ・・・・、読む価値ありです。
密謀 (下)
★★★★☆
上巻は全て前置きだったのかと思うほど、関ヶ原の終戦まで事態が急変します。事実は変わることなく、三成は敗れ上杉は降伏するのですが、幼年期の欲求不満が天下統一の欲望になったかのような、家康の人物描写は新鮮でした。
時代小説と歴史小説の融合を試みたようですが、時代が時代だからかどうしても表舞台の方の比重が重く、静四郎や草の者達の活躍が今ひとつでした。草の村の異端児・宗千代や、スパイとして三成の居城へ赴いた静四郎の妹まいなど、設定は面白いのですが目立った出番もなく残念です。
最後に兼続は義は不義に勝てないと無念がりますが、個人や特定の団体の利益を優先する現代においても、物悲しく響きます。