水の魔術師。
★★★★★
著者、松崎詩織は、「水の魔術師」です。
【水】(液体・気体)を描くのがとても、美しい。
もっと言うと、それは、【水】が介在する男女の交合の怪しい美しさです。
たとえば以下のようです。(【 】での強調は、評者)
「その瞬間、自分の体内から【大量の欲望を滲ませた液体】が溢れ出し、
股間から太腿を伝わって足首まで流れ出した。」
(17ページ)
「由布子は驚きとともに小さな満足を味わい、
【その生ぬるい液体】をすべて飲み干した。」
(17ページ)
「直樹の手から、【結露】に曇った透明なグラスを受け取った。
その瞬間、由布子の指が直樹の指に触れる。
それを直樹が意識したことを、
由布子は彼の隠し切れない小さな動揺によって気づいた。」
(73ページ)
「【湿度】も高い。
【質量を持った空気】が由布子の肌と心を圧迫する。」
(74ページ)
「胸の谷間を【玉になった汗】が、ゆっくりとすべり落ちていく感覚が、
妙にくすぐったい。」
(74ページ)
「淀むばかりで逃げ場のない室内に、
二人の【吐く息が飽和】していく。」
(75ページ)
「直樹の瞳が【柔らかく濡れていく】。その中に由布子の姿が映る。」
(76ページ)
「由布子は直樹の唇に当てていた指をゆっくりと滑らせ、
直樹の額に【流れている汗】を掬い取った。」
(78ページ)
「それは意志を持って口から発せられたというよりも、
【少しずつ溜まり続けたものが満杯になって、
ついに溢れ出した】というような感じだった。」
(79ページ)
「開いた両脚の間に、
【たっぷりと湿気を吸い込んで重くなったショーツ】が落ちていった。」
(81ページ)
「乳首の先から唇まで、【唾液が糸を引く。】」
(82ページ)
「直樹の欲望から【湧き出たような息】を、
由布子の全身の細胞ひとつひとつが受け止める。
【男の吐く息】が至上の前戯であることを、由布子は初めて知った。」
(83〜84ページ)
「(……)が由布子の中に【熱い液体】を吐き出し続ける。」
(91ページ)
著者の【水】を扱う手際は、鮮やか。
知らずしらずのうちに、読む者は、水の魔術師に幻惑されて、
気がついたときには、すでに水底深くに引き込まれてしまっている。
104ページから最後にかけて、透明な液体(水)に、
赤い液体(血)と白い液体(精液)とが加勢する。
赤と白とのせめぎあい(135ページ)は圧巻。
ラスト近くの「水道」が、このお話のカギを握っている、
というのは、深読みか。