文化ナショナリズム入門
★★★★☆
概念の理論的考察から入って、国民国家の形成過程における「国民文化」の再構築の諸相をあとづけ、戦時下のファナティックな、しかしその後の知識人の文化認識を大きく規定した悠久の「日本文化」本質論を批判的に検討した後、丸山真男など戦後の言説を概観して終える。とりあえず色々と入っている、という感じで、適当に読み飛ばしながら読んでもかなり勉強になると思う。
ただし、著者の専門ということもあり基本的には「文学」関係の情報が多めである。そのため文字表現としての「日本文化」論にばかり焦点があたり、民俗学など実態把握から「日本文化」の本性に光をあてていった知の系譜に関しては、議論が足りないように感じられた。また、著者がこれは「文化ナショナリズム」の生産物であるとみなしたテクストの読解が議論の中心であるため、それがどのように「国民」に受容されたかについては、よくわからない。この点、言説の消費者の意識や価値観に着目した吉野耕作の仕事(『文化ナショナリズムの社会学』1997年)などで補った方がよいだろう。
戦後に想像された史観に基づく講義は本書の価値を損ないますね
★★★☆☆
小冊子にもかかわらずさまざまなテーマが取り扱われています。基本的なアプローチとしては、近代における”伝統”なり”国民”の創造なり想像というアプローチに依拠しているようです。どのテーマも国内の歴史的な文脈での位置づけ、西欧との対比を通して、丁寧に取り扱われており、非常に参考になります。ただあまりにも多岐にわたるケーススタディを断片的に取り上げたためでしょうか、若干、わかりにくい部分が見受けられるのは、残念です。どれも単独で取り扱っても取り扱いきれないテーマが満載の近代日本です。ただ、著者によるナイーヴで一面的な近代史観に基づく講義があまた顔を覗かせるのは、残念です。若い世代向けに、歴史一般の講義もしなければという熱い使命感に燃えたためでしょうか。結果としては、チープでドグマティックな論調が、本題とは関係ないところで、顔を覗かせ、全体の中で奇妙で空虚な位置を占めてしまい、核となる分析のオリジナリティをぼかしてしまう結果となってしまいました。