ひまじねーしょん
★★★★☆
宣伝文句の「小説のように読める」とまでは行かないが、訳文のリズムに配慮したのが特徴。大きな役割を果たしているのが、原書第4版では削除されたイタリック体の強調を復活していることで(訳文では太字)、ページの見栄えにメリハリが付いている。しかしこの強調はドイツ語のリズムをとるのが主目的であったようで、大半は内容上の強調点ではない。
術語の訳もしゃれた雰囲気を出すのに一役買っているようだ。しかし内容の正確さが犠牲になってると思える部分もある。たとえば第3章で従来は「貨幣の通流」と訳されてたのが「回流」となっているが、この場合の通流は貨幣流通(サーキュレーション)と違って出発点に戻らず遠ざかる貨幣の運動を指しているので、回流とすると戻ってくるような印象を与えてしまう気がする。
第1巻の訳しか無いのと、原書ページが付いてなく学習会などで不便なので、すでに他の訳を持っていて、新しい雰囲気の訳を味わってみたい人向け。いまどき資本論の新訳を出す志は素晴らしいと思う。