アインシュタインの研究の舞台裏
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むかしポアンカレの 『科学と仮説』 を読んだとき、 (アインシュタイン以前)すでにローレンツやポアンカレが、特殊相対論の実質的な部分をほとんど解明していたことを知り驚いた。
たとえばポアンカレは、2つの出来事の同時性の曖昧さや、マクスウェルの電磁気学がローレンツ変換に対して不変であることをすでに理解しており、そのことを論文にも記しているという。
にもかかわらず、特殊相対論の発見者がアインシュタインとされるのは、どうしてなのか?
本書には、そういった当時の状況や、研究の背景が詳しく解説されています。
本書であつかわれているアインシュタインの研究は、相対論、ブラウン運動、光量子論、量子力学批判です。
そのうち大きな山場となっているのは、特殊相対論をひっさげ颯爽と物理学会に登場するまでの経緯、一般相対論を完成させるまでの長い試行錯誤、晩年の量子論をめぐる論争という3つの部分でしょう。
個人的に興味深かったのは、一般相対論を完成させるまでの試行錯誤の過程でした。
等価原理のアイデア(1907年) から重力による光の屈折(1911年) までの論文では、 (思考実験にもとづいた) 素朴なアイデアの提出にとどまっていた研究が、1913年に発表された論文、 「一般相対論および重力理論の構想」 をきっかけとし、いっきに四次元幾何学という高度な数学の理論に変貌していきます。
この論文は、数学者グロスマンと共同で書かれたものでした。
アインシュタインの中で革命的な発想の転換がなされたのは、1912年の夏だったようですが、そこには、古くからの親友でもあったグロスマンの、数学に関する大きな助力があったようです。
ただし、アインシュタインは、グロスマンが一般相対論にどれくらい貢献しているのかを明らかにしておらず、 (手柄を独り占めにするかのような)アインシュタインの態度には、かなりの不満を覚えました。
一般相対論で重力を記述するさいに用いるテンソルがどういったものか、この種の解説書としては、けっこう詳しい説明があります。
それだけに、縦書きよりも、むしろ横書きの方が読みやすかったように思います。