1936年生まれの著者は、大学へ進学するのも就職するのも「女だから」という理由で反対されました。そのたびに男性中心社会の理不尽を感じ、「今にみていろ」とエネルギーを蓄えます。
会社が女性を雇ってくれないのなら10年後に自分で会社を興す、と決めた著者は、32歳で本当に会社を設立してしまいます。
会社を興し伸ばしていく過程での魅力的な人々との出会い、女性ばかりの会社を維持するための苦闘、病とのたたかい、養子縁組した20歳の青年との葛藤の日々。いつも全力でぶつかり、激しく衝突しながら突破していくエピソードの数々は、女性はもちろん男性が読んでも浄化作用(カタルシス)をもたらします。
たとえば……、
昭和20年7月に三重県桑名市に大空襲があり、あやうく死にかけた9歳の著者は、「もし生き残れたら、大人になって、アメリカに行って、この体験をみんなに話して、二度と子どもたちが戦争で命を落とすことのないように頑張ります」と神様に誓います。
後日、ニューヨーク世界博のコンパオンとして初渡米し、マスコミ対応しているとき、車イスに乗ったジャーナリストと話をする機会がありました。自分の出身地を尋ねられて「三重県の桑名というところ」と答えると、彼の顔色が変わりました。聞けば、その人は桑名を爆撃した米海軍兵士で、戦争の心の傷から半身不随になってしまったといいます。「よく生きていてくれた」と声をつまらせる彼は、著者が9歳から秘めていた誓いの内容を聞き、「私もマスコミの人間として、いろいろな人たちに話していこう」と言ってくれます。
全力で失踪する著者のエネルギーと、心に秘めた悲しみが伝ってきます。
中身の濃~い本でした。