物語はきわめておもしろい。登場するのは、ライバル関係にあるITコンサルティングファーム2社で、業績は五分五分だが、一方のCEOはライバルの偵察までして躍起になっているのに対し、もう一方のCEOは「4か条の指針」を実践するのみで泰然と構えている。しかし、業界やクライアントから絶賛されるのも、優秀な人材が集中するのも常に後者で、しだいに2社の差は開いていく。やがて、後者の会社に乱入したある男が、「4か条の指針」に基づく競争力の源泉の一部始終を目撃する…という筋書きである。
人物造詣の深さ、緊迫感のある会議の描写、終盤まで明かされない「4か条の指針」など、短い物語のなかに優れた要素がたくさん詰まっている。肝心の「4か条の指針」は「健全な組織のモデル」として、最後に解説されているが、いずれも特別な言葉で表現されるものではない。にもかかわらず、組織全体を貫く思考や行動様式をどうの築けばいいのかが、十分に理解できる内容となっている。
後者の会社の経営会議のシーンでは、ぶつかり合いや混沌の後、瞬時にチームがまとまり、意思決定が行われる様子が描かれている。こうして「健全な組織」が力を発揮したときのモデルケースを見られるのが、本書の大きな魅力であろう。(棚上 勉)