深く訴えかけられる一冊
★★★★★
「情報」は背後に隠された文脈や受け手の捉え方と一体になって初めて「訴えかけるもの」となる。画面に映る光の点の並びに過ぎないもの(情報)が人に見られると意味(訴えかけるもの)を持つように。
映像や写真といったビジュアルな「情報」は、「訴えかけるもの」への距離が文字媒体に比べて短いことも多い。そして本書は、ビジュアル・ジャーナリストの手で編まれている。加えて題名が『戦地」に生きる人々』ときたら、それと見てすぐに「訴えかけるもの」が分かるような「センセーショナル」な本なのではないかと考えてしまいそうだ。しかし、実際はそうではない。扱われる写真も違う題名の本に収められていれば、「戦地」に生きる人々の写真だと気がつかないようなものばかりだ。だからといって「訴えかけるもの」が少ないわけではない。被写体の彼らがいかなる歴史的・地理的な背景を持ち、どんなことを考えて生きているのか、そういったことが、彼らの世界に分け入ってその姿を伝えようとする日本人の目線から、文字で描かれる。そうした文章と写真との織り合わせが、深さを湛えた「情報」を持つ一冊を可能にしている。「戦地」のイメージと直結するような悲惨ではなく、そこで生きる人々にこそ光を当てているのだ。
本書は評者には深い印象を残した。せいぜい名前や上っ面の知識くらいしか持っていなかった世界の、リアルな一面を知ることが出来たように思う。そしてまた、知られざる現実の一面を「伝えることの意義」を全うしようとするジャーナリストの姿勢にも深く感銘を受けた。「暴力と武力にさらされた人々の声を日本に届けることを目的として」(p.27)編まれた本書は、少なくとも、本書の「情報」を求めてこの書評に目を留めるような方には一読の価値があるのではないかと思う。
もっとも、評者は類書を読んだ経験がなく、他書との比較の上での評価ではないことにはご留意いただきたい。