本書は、具体的な大工道具や建築物を例に挙げながら、いにしえの大工の技を紹介している前半部分と、松浦の仕事や後継に対する考え方などが述べられている後半部分とに分けられる。柔和な語り口調の文体で書かれているため、とても読みやすく、理解しやすい。また図版も多く、たとえば、大工にとっては電卓よりもはるかはるかに実用的であるというサシガネについても、図版を見ながら説明を追うことで、実際の使い勝手を実感できるようになっている。
松浦は、現在ではプレカットされた木材が用意され、確かに大工仕事は楽になったが、そのために学ぶことができなくなった技術があるということを語っている。今の若い者は…というセリフを吐く代わりに、失われた風習や心意気の意味を淡々と説いているその語り口からは、宮大工の仕事を伝えにくくなった時代に対するあきらめのような気持ちとともに、良い大工になりたいと考えている若い人の発憤を待っているような、複雑な気持ちを感じる。(朝倉真弓)