パンルヴェ方程式の待望の解説書。核心部での計算の省略が少し残念!
★★★★☆
2階の有理的な非線形常微分方程式で動く分岐点を持たないものは、求積可能なもの、線形方程式や楕円関数の方程式に変換されるものを除くと、6つのタイプのパンルヴェ方程式に帰着することは良く知られている。本書はパンルヴェ方程式の研究に画期的な進展をもたらした岡本先生による待望の解説書であり、この方程式に興味を持つすべての方にお薦めできる必読の好著である。
パンルヴェ方程式の古典理論を語るとき、フックス型方程式のモノドロミー保存変形の理論を避けて通れない。即ち、リーマン球面上に4つの確定特異点(0,1,t,∞)と1つの見かけの特異点λを持つ2階フックス型常微分方程式がモノドロミー保存変形である場合、λはtの関数としてパンルヴェの第6方程式を満たすというR.フックスによる発見、及びtとλを多変数の場合に拡張したガルニエによる精緻な偏微分方程式系(ガルニエ系)の理論が基本になる。岡本先生はガルニエ系がハミルトン系(ハミルトンの正準方程式)で表現できるという驚嘆すべき大発見をされた。これを解説する第3章(特に3.6節)は本書の核心部であるので、読者はこの(かなり面倒な)計算を確実にフォローする必要がある。
ここで確立されたハミルトン構造の存在がパンルヴェ方程式の構造の研究に如何に基本的であるかは、本書の後半にある対称性と変換群、あるいは超幾何型の特殊解の存在などの解説を読めば、自ずと納得されると思う。
尚、本書を読むには複素領域における線形常微分方程式の確定特異点に関するフックス理論と不確定特異点における漸近解やストークス係数などを理解している事が望ましいので、丁寧に解説されている高野著『常微分方程式』を併せて一読されると良いと思う。