典型的な週刊誌的取材
★☆☆☆☆
事件は今もって疑惑が多いことは事実だが、著者の取材は、典型的な週刊誌ジャーナリズムの手法で、事件直後の週刊誌掲載ならOKかもしれないが、現在から見ると非常に浅薄。逆に言うと、不明点が多く、裏取りも難しいから、わざわざ反論を何を書くほどの内容でもないので、書き得と言うこと。例えば、バーレーン当局の広報担当に話を聞くだけでなく、実際に取り調べに当たった人物を取材するなどの努力の跡が見えない。最近、取り調べに立ち会った日本の外交官が「極秘指令」と題した手記を書いているが、これに比べると遜色は比べるべくもない。思わせぶりな情景描写が多いのも内容不足を補うテクニックか。最近韓国で出ている謀略ものもこの手合いらしい。
大韓航空機「爆破」事件の真相!
★★★★★
失踪した飛行機の機体も乗客の遺体も発見されず、「金賢姫」の自白だけに基づいて「北朝鮮のテロ」とされた大韓航空機「爆破」事件--この事件は、日本において「北朝鮮は恐ろしい」という偏見を広め、日本政治の右傾化に大きな役割を果たした。しかし、ちょっと立ち止まって再考してみるべきだ。北朝鮮のテロという根拠はあるのか?反北朝鮮感情を広めることに利益を持っている人は誰なのか?この書は、「北朝鮮のテロ」説を崩壊させ、真相に迫る名著であり、朝鮮問題を考える人や日本の右傾化を憂う人の全てが読むべき本である。
記述は詳細だが、拉致問題を否定した内容には疑問
★★☆☆☆
1987年、北朝鮮の工作員により飛行中に爆破されたという大韓航空機爆破事件。遺留品が機体の一片すら発見されず、北朝鮮犯行説も工作員「金賢妃」の証言しか証拠がないと言う。
本書ではこの事件の詳細を追いながら、北朝鮮犯行説に疑念を呈し、その中で「金賢妃」は仕立て上げられた犯人ではないかと主張する。真犯人を指摘するまでには至っていないが、冒頭部では、韓国情報機関による犯行をにおわす。
記述は詳細で北朝鮮犯行説を退ける著者の指摘も説得力があるかに見える。一歩引いて見ると、国家間での情報戦の凄まじさを感じることができ、それは日本も埒外ではないことが理解できる。
それはいい。問題は、本書が、北朝鮮犯行説を退けるにあたって、「金賢妃」の日本語教師として浮かびあがってきた「李恩恵」なる日本人の存在、ひいては北朝鮮による日本人拉致疑惑について、真っ向否定している点だ。拉致疑惑すら作られた偽情報、策謀だというのだ。北朝鮮によるミサイル発射実験、拉致問題以来の、日本政府の硬直した北朝鮮政策を非難するまでする。
初出の1999年時点での主張であればまぁ許容できないではないが、2004年の文庫化にあたっての「まえがき」でもこの点については全く触れていない。拉致問題を認めることは、本書の論旨に沿わないにしても、こうしたスタンスにより、かえって内容に説得力を欠いてしまったと言わざるを得ないと感じた。