その考え方の根底には、企業を「高度な複雑系」「生命」とする見方がある。従来のマネジメントに自明の論理や手法は、そうした複雑系や生命としての企業をとらえきれずに限界に突き当たる、というのが著者の主張である。具体的には、論理的思考、問題解決の枠組み、意思決定、合意形成、組織デザイン、あるいは部下指導などの、マネジメントの「限界」について議論が繰り広げられている。
では、どうすればそれが乗り越えられるのか。著者は「企業全体をその複雑性のままに理解する手法が求められる」として、「直観力」と「洞察力」の2つをその答えに据えている。さらに2つは「論理を突き抜けるまで論理思考に徹する修練」でしか身につかないとも論じている。本書で一貫して強調されるこの「徹する」という哲学的境地は、マネジャーとしての精神のあり方に強烈なインパクトを与えるはずだ。
勝負の世界の鮮やかなエピソードや、西洋哲学、東洋思想、宗教、諸科学への著者の深い造詣が、本書の奥行きを広げている。高度な概念が、じつに平易な言葉で語られているのも驚きである。従来のマネジメントがとらえきれなかった世界の輪郭が、ここに見事に浮び上がっている。(棚上 勉)