ピュア・・・?
★★★☆☆
漫画表現の奥の院へようこそ!隠れた名作でござる。これはまるでエデンの園のアダムとイヴの逸話を逆手にとったような物語です。 まもなく終焉を迎えようとする地球で、お互い似たようなトラウマを抱えた二人が、終始イチャつく姿を見せつけられますが、ただひたすら純粋に明るく朗らかに愛し合う二人からは、子供のように無垢で素直な心をもらえるはず。これはひとつの生命賛歌として「木を植えた男」と似たような希望がありました。 漫画にはめずらしく生(性)といった主題がしっかりと描かれ、エロスがアガペに変わる瞬間‥つまり「真実の愛」が封じ込められた稀な作品。ただ、手探りで書いているので、セリフが散漫で、文体が少しクドい気がしました。そこが残念です。
知られざる傑作
★★★★★
メジャーな潮流には乗らず、普通の読者が気がつかないうちに
いつのまにか出現していた傑作。
ありえないほどの完成度を誇り、
マンガの表現力はここでひとつの限界を超えたと思う。
「ヒロインのもともとの人格が何であったか」とか「他者とは何であったか」
といった謎に対する答えが作品中で明示されないため謎解きが中途半端であるとの
印象を持つ人もいるかもしれないが、少なくともこの二つの謎の解答については
作品中で十二分に示唆されている(これは文学においては古典的な技法である)。
むしろこれをあえて明示しなかったにもかかわらず作品世界をしっかりとまとめ上げることに
成功した作者の力量こそ賞賛に値するといえるだろう。
この作品が10年後、20年後にも読み継がれていくことを願う。
いやはや、恥ずかしい漫画です。
★★★★★
何が恥ずかしいって、題名が恥ずかしいし、表紙が恥ずかしい(この新装版で解決!)。臆面もなく愛を声高に主張する内容が恥ずかしいし、そしてなにより、そんな漫画を読み返して、気がつけばボロボロと涙を流している自分が恥ずかしい。ひとさまにプレゼントするような漫画ではありません。きっと「大丈夫か、あいつ?」と思われるでしょう。であるからこそ、自分が見つけた、自分だけの年に一度(僕の場合)の心の浄化装置として、無くてはならない存在の漫画として、僕の本棚に君臨しています。この作品が持つ、暴力的なピュアネスに一度、衝撃を受けてみてはいかがでしょうか。
美しい本、読みやすく新鮮
★★★★★
大型版での再出版です.
素晴らしい出来栄え.ページをめくるのが惜しいくらいで,
新鮮な感動が蘇える.
正直に書きましょう.
私は、元の「ジェッツコミックス版」を何度も読んでいました.
こちらの本を注文したのは,
「カラーイラスト」,「ロングインタビュー」の宣伝につられたからです.
正直、買うか迷っていました.
(だって「ジェッツコミックス版」も持っているから).
読んでびっくり.
他のコミックでの大型再出版とは一線を画します.
美しい印刷. 「安い」本にありがちの、いやな匂いなど、全く無く.
軽くて読みやすく、愛着が持てる作り.
他のマンガ本で、これほど丁寧に作られ、しかも、これほど安い本を私は知らない
(と言い切っておく).
「ジェッツコミックス版」を何度も読んだにも関わらず、
ページをめくるたびに、新鮮な感動が蘇える.
価値のある本.
野暮な長文で恐縮ですが
★★★★★
「もと子先生の恋人」に感銘を受け、そのあとがきで「長く厳しかった」と語られたこの重い作品を読みました。実はかつて第一巻を斜め読みし、その時点では冒頭での設定を陳腐なものと断じて、最後まで読まなかった記憶があり、己が不明を深く恥じ入るものです。
この作品は多くの作品と対比して語られる事でしょう。
私は新井英樹氏の「ザ・ワールド・イズ・マイン」を挙げておきたいと思います。
TWIMが描き、幻視した私たちのタナトスに対して、どうやってアンサーを返してゆくのか?どう抵抗するのか?この「愛人」はそういう作品だと思います。(タナトスに対してエロス、というのも陳腐な対比と謗られましょうが、この作家が最終的に2年もかかった最終巻改訂を乗り切った要因の一つは、エロ漫画出身者である事を誇りとする誠実さにある様に思われます)
滅ぶ世界に抗い、「誇り」「矜持」と呼ばれる心性を取り戻そうと苦闘する人々の物語です。
私が軽率にも陳腐だと判断した、旧単行本第一巻時点で提示される要素としては、終末論SF、難病モノ、生体ダッチワイフ、といった、商業マンガで使い古されている類型的なものが多く登場します。同じく冒頭で登場する伏線は、主人公の出自と恋人達の関係性という、これも類型的な謎の様に思われます。
そして実は終盤で示される「世界に抗う方法」も、それだけを取り出したら陳腐と言われてしまうものかもしれません。
しかしこの作品の製作者達は、登場人物たちと併走するように、作品に入り込み、執念と言うか妄執と言うべき執拗さで、陳腐になりそうな要素を一つずつ探り出し、ひねり潰して行った様です。製作者達に感情移入すると息苦しくなります。
文字通り一歩間違えば死んでいたかもしれない(結果、作品は未完の傑作と化したかもしれない)努力の結果として、この作品の後半はコミック版「風の谷のナウシカ」第7巻に匹敵する力を得た、と思います。
作者は「安易な成長物語はやりたくない」といった趣旨の発言をしている様ですが、結果としてこの作品はビルドゥイングス・ロマンになっていると思います。
主人公は、己一人の世界から、己が刻んだはずの(文字通りの)偶像に人間として認められる二人の世界、更に外の世界と脱皮し、最終的には未来に対して果たすべき責任を果たして死んでゆきます。
そしてこの作品の世界観も主人公とともに成長してゆきます。
その結果、上記の「伏線」は回収されません。中盤から終盤に掛けて、ある種の答えは示されますが、謎の解決を求める見地からすれば不満もあるかもしれません。
けれども、「そんな事よりも遥かに大切な事はある」と、力強く作者達は語りかけてきます。
謎の替わりに提示される、当たり前すぎる結論は、現実逃避に留まらない虚構の力、マンガの力を再認識させてくれるのです。