稔典俳句の原風景
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この句集には、初期の作品『朝の岸』抄(昭和48)、『春の家』全(昭和51)、『わが町』全(昭和55)、『落花落日』全(昭和59)、『猫の木』抄(昭和62)の他2本のエッセイが収録されている。正岡子規を論究(『正岡子規−俳句の出立−』俳句研究社 昭和51)しながら今日の俳句とは何かを模索していた時期のアグレッシブな作品を読むことができる。口語自由詩の一行を切り取ったような句も多く、読み手はある緊張感を感じる。イメージについてゆけない句も多いのだが、それは読み手の側の想像力の貧困に起因するばかりではなく、作者の感じている「俳句の規範の前提」の埒外における今日の俳句の「伝達不可能性」という限界に挑戦しているかのような作句スタイルの故でもあろう。また、初期の句には、自己形成過程の原風景からおのずと立ち上がってくるらしいことばが頻繁に登場し、若い自意識を感じることができる。そこが読み手の精神に響いてくる面白さかもしれない。稔典俳句のアイデンティティの一端に触れることができる句集である。
読み手が感じた一句。「無花果の花のジャン・ジュネ友斃れ」(『朝の岸』より)