政党制ではなく選挙区制の書で、主張に建設性がない
★★☆☆☆
文字通りの二大政党制批判の書で、英国が戦時中のチャーチル以来の連立内閣となった今では時宜を得た題材と言えるが、内容には疑念が湧く。政党制を論じていると言うよりは、単に選挙区制を論じているだけとの印象を受けた。
マニフェスト批判など頷ける点もあるが、元々マニフェストは選挙区制ましてや政党制と関係がない。「小選挙区制は第一党と第二党の対決に注意が注がれ、有権者は第三党以下は無意味な存在と見なしてしまう」との「デュヴェルジェの法則」を信奉している様だが、冒頭の英国の自由民主党、日本における"みんなの党"等を考えると怪しい論旨で、結局は有権者の意志が大きい点が考慮されていない。この他、「政治工学」と言う概念を多用して、多様な有権者の意見が反映される(と著者が考える)中選挙区制が優れていると主張するのだが、日本のかつての中選挙区制時代、政治が停滞していると感じていた私には納得出来ない。
本当に中選挙区制の方が、社会的弱者を含めた有権者の意志が反映されるのか、明確に示されない点も大きな瑕疵で、本書全体の主張を批判一方だけの脆弱なものにしていると思う。もっと建設的な主張を展開して欲しかった。
中途半端な批判
★☆☆☆☆
二大政党制批判ということで、筆者は途中レイプハルトとか引っ張り出して多党制を礼賛するのだが、結論は比例代表制にして多党制にするのも政治工学ってことになるので、2大政党制の中でも議論を深めようというなんともお粗末な結論に終わっている。社会科学には現実政治に対する処方という役割もあるので政治工学と批判するのは無意味である。
今の政党政治の現状を冷静に分析できておらず(今の自民党と民主党の二大政党制を壊してまで多党制にしようとは思わないのではないか?)、筆者の単なる被害妄想論に終わっているようにしか思えなかった。
評価できない立論
★★☆☆☆
単に、小選挙区制を賞揚した人たちに対する「憤懣やるかたない気持ち」がつづられている書物。民主政治というか、普通選挙に基づく議会制度においては、政権交代自体に価値がある。「民意の反映」という言葉は聞こえはいいが、所詮マジックワードで、反映度を検証する方法論が存在しない科学的検証に耐えられない概念でしかない。
とすれば、まずは、具体的な政治情勢、つまり現代の日本という風土、前提条件の下で、政権交代が起こりやすい制度とは何かという発想が重要なはず。
やみくもに死票が多いというだけの批判をするのは、いただけない。
二大政党制への罵詈雑言は結構だけど、「もうひとつのデモクラシー」は何処に書いてあるの?
★☆☆☆☆
この人はロジカルな立論が苦手なのだろうか。
例えば「票と公職と政策のトレード・オフ」と言いながら全然トレード・オフになっていない(公職の獲得は得票の多寡に依存する)。
また一党独裁の対立概念である複数政党制が民主主義の要件だからと言って
「1よりも複数が良いのなら、2よりも多数が良い」式の議論は何とも粗雑である。
そんな調子で先行研究から自説に都合の良いものを切り貼りし、
二大政党制及びそれを齎す小選挙区制に対してひたすら否定的な言辞を連ねていくのだが、
それは批判のレヴェルを超えて嫌悪とか憎悪の色調すら帯びており、
もしや著者は中小政党の支持者だから二大政党制に反対しているのかとの邪推すら湧く。
で、対案はというと、比例代表制への選好を示してはいるものの、
選挙制度改革を(恰も金融工学のように禍々しいもの、という含意を込めて)「政治工学」と蔑称した結果、
制度変更を訴える道を自ら閉ざすという自縄自縛に陥っており、
せいぜい現行の並立制の枠内で比例議席増という程度の提言にとどまっている。
尤も与党から複数の候補が同一選挙区に出馬し、政策でなく利益誘致を競う結果、
政治の腐敗と荒廃の元凶となっていた中選挙区制及びその結果横行した自民党の派閥政治にすら好意的な評価を見せており、
この人は小選挙区制でなければ何でも良いのかとすら思えてくる。
先進国中頻々と内閣が交代し、政治的安定の欠如という宿痾を抱えていたのが嘗ての日本とイタリアであり、
その元凶の一端がそれぞれ中選挙区制と比例代表制にあったことを忘れてはなるまい。
中選挙区のもとでの腐敗と荒廃を超克し、
「失政、悪政を行う為政者は政権の座から放逐される」という民主主義の基本の基本を今般漸く実現したのが小選挙区制である。
その意義を等閑に附し、一方的に批判するのみで「闘技型デモクラシー」以上のまともな対案もなし、では有用な議論とは到底言えまい。
政党政治のあるべき姿とは?―真の国民参加に向けて
★★★★★
本書は、ヨーロッパ現代政治を専門とし
現在は北海道大学准教授である著者が、
二大政党制について論じる著作です。
著者はまず、民主主義における政党の意義や
日本における政治・社会情の変化のなかで
二大政党制がどのように論じられてきたのかを概観します。
つづいて、汚職が減る、結果的に極右やポピュリスト政党が躍進する。
といった教科書的な二大政党制理解がイメージに過ぎないことを指摘。
そのうえで、国民が参加する政党デモクラシーの実現と
その前提たる「日本の作法」の確立を提唱します。
小選挙区制をめぐる議論と政界・財界等の動向の紹介は
政治史のドキュメントとしても、たいへんおもしろく
他にも、自民党と民主党の組織構造の違い
レファレンダムや討議デモクラシーとの比較
新自由主義的な政策の実現と二大政党制の関係など
とても興味深い記述が多くありました。
しかし、なかでも印象的だったのが、
二大政党制は敗者を作り出すシステムであり
「政権交代があった場合、それまで権力の座にあった政党の既得権益を破壊しようと、
急進的な政治が行われることになる」という指摘です。
現在「仕分け」等で行われていることは、まさにこれなのか?
少し時間がたってから、政策の変化等を見つめなおしたいと思いました。
佐々木毅さんやレイプハルト、S・ムフなど
代表的な研究者はもちろん、
ジャーナリスト、さらには映画までをも参照し
二大政党制の当否、そして日本における民主主義のあるべき姿を問いかける本書
政治学や憲法学等に関心がある方に限らず
一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です。