流動性預金でどんどん国債を買おう
★★★★☆
理論的かつ実践的な本である。バンキング勘定のコア預金をきちんと把握して、国債の安定的な運用を図ろうという財務省にしたら涙を流して喜ぶような話である。
流動性預金は契約で期間を縛ることができないので、顧客行動をきちんとモデル化し、継続的に検証する必要がある。金利上昇がなくても国民の運用選考の変化によっては流動性預金が大きく減少する可能性もある。
これについては、一定のデータと基本的な金融工学のノウハウがあれば決して難しいことではないと思う。
こういうことは日本の場合民間の自主努力に任せるよりは、行政が入る形で、民間金融機関に広く普及すべきだろう。
バーゼルU規制強化に対しては、日本の行政・民間金融機関は預金の質等の違いを主張していたが、きちんと定量的に分析をしたうえで、主張すべきではないかと思う。
VaRを絶対視する風潮への警鐘
★★★★★
VaRを計算するには複雑なプロセスの検証が必要で、前提の置き方しだいで異なる数値
が得られることもある。にもかかわらず、一度VaRが計算されるとそれが絶対視され、
一人歩きすることで弊害が生じる。本書は、そうしたVaRの持つ不完全性をきちんと
理解したうえで、VaRを正しく経営に生かすことが大切であると説く。
本書には、そうした不完全なVaRを創造改良するための具体的提案も出ており、
参考になる。ただ、さまざまなリスクを内包した証券化商品が蔓延する今日、
VaRで経営リスクを語ることに限界はないか、今後検討を要する問題である。
ところで、最近、金融商品の開示でVaR開示を義務付けようとする向きがある。
VaRが開示されれば財務諸表利用者にとってメリットは大きい。しかし、VaRの
不完全性をきちんと理解しない利用者に対して、ミスリーディングな情報を流すことに
なりかねない面もある。そもそも前提の置き方によって数値が変わってくるようなものを
いったいどうやって監査法人が監査するのか。VaR開示の義務付けを議論する際に、
欠けている視点である。