自分万歳映画もたまにはいいじゃないか。え、これが最後なの。
★★★☆☆
毎回、興行収入のことを書いても意味がないが、このグラン・トリノは製作費のおよそ8倍を稼ぎ出している。
トレーラーを見る限り、頑固な老人と少年の交流程度しか分からず、それほど引き付ける要素が多いようにも思えない。この作品を最後に監督業一本に絞るとの発言もあるが、来年80歳を迎える合衆国の象徴は未だ自らを試しているように感じられる。
イーストウッドは不満があるのだろうか?ステレオに若者の粗暴を描きだし、アジアの一部族への尊敬もどこか虚ろに見える。日本車をあからさまに貶し、差別発言を日常会話に織り交ぜる。
72年製のフォードグラントリノをビール片手に眺める姿はまるで今の合衆国を見ているよう。
若者を投げ飛ばし倒れたところを足蹴にするその様は「まだまだ若い者には」というような気負いではなく、「いつになったら私にところへ追いつくのか」と大業を見せつけているように映る。
44マグナムを手に70年代のハリウッドを牽引した荒くれ刑事は自らの最後を皮肉な形で示した。
再生を望む大国の礎にまだまだイーストウッドは活躍しそうだ。
「絶対ではない」という考え方
★★★★☆
人種差別、世代交代など作品が含むテーマは深刻ですが、
軽いタッチで描かれているため、イーストウッド作品の中では
受け入れやすい作品の方だと思います。
(私は「ミリオンダラー・ベイビー」や「ミスティック・リバー」の方が、
観終わったときの衝撃が大きくて「凄い」と思いましたが……
なんせ暗くて絶望的なので、万人受けしないのでしょうね)
私はアメリカ映画でとことん描かれる「家族絶対主義」が
どうにも受け入れられなくて、最近ほとんどアメリカ映画に
期待しなくなりましたが、イーストウッドの作品だけは期待して観ます。
世の中のほとんどの人は、家族に愛されて育ち、自らも家族を愛して、
死ぬまで家族とともに生きる。それが人の幸せであり、
当たり前のことだと信じています。
でも、そうではない人がいることを、
そしてそれはどうしようもないことだということを、
イーストウッドは静かに語ってくれる。
「家族」にしても「宗教」にしても、
否定するのではなく「絶対ではない」という描き方をしていて、
私はそういう考え方に共感をおぼえます。
どこをとっても生粋のアメリカ人って感じなのに、
なぜそんな東洋人のような繊細な考え方ができるのか……不思議です。
だから、イーストウッドは対立する関係を描くのが本当にうまい。
どちらか一方に肩入れするということがなくて、
今回のウォルト老人と隣家のモン族の姉弟が
徐々に近づいていくようすにしても、自然に両方の立場から観ていられる。
私はアメリカ人の気持ちもモン族の気持ちもわからないけど、
どっちも応援するような、そんな気持ちになりました。
そして今回もやっぱり、音楽が素敵でした。
このひとの音楽のセンスって……
あの渋い顔からは全然想像つかないんですが、良いです。
男の死に様 アメリカの病理
★★★★★
クリントイーストウッド凄過ぎ。
ダーティーハリー、マディソン郡の橋、父親たちの星条旗、ミリオンダラーベイビー、などを観た。
近年の作品には深い思想や哲学が含有されているように思う。
本作品はまさに男の生き様としての死の在り方だろう。
戦争という仕事に就いた男が余生を生かされる現実、近隣者という他者、それも人種の坩堝と表現されるアメリカで。
他者との関係性の中から生まれる友情あるいは愛情ともいうべき正義。
差別という人類の不条理の中を筋を通して生きる男の生き様を見せつけてくれる。
市場経済、宗教、人種、犯罪、アメリカの病理がそこにあるのかもしれない。
涙なしには見られない
★★★★★
最近の映画にしては粒子感漂う映像で、ブルーレイにしてはいまいち
音声解説もなく、特典映像ももうちょっと増やしてほしかったですが
大好きな映画なので絶対に手元に置いておきたい1本です
結果が分かっていたって何度観ても心にこみあげてくるものがあり
エンディングの曲も地味ながらも効果的に使用されていて印象的です
私は車にあまり興味ないですが特典ではキャストやスタッフが
車についての思い出を語っていてとっても微笑ましかったです