この本は朝鮮半島の歴史の入門書と銘打っていますが、通常、入門書とは第三者でも受け入れられる客観的な事実のみを平易に記述するものですが、この本の場合は日本と韓国で異なる主張や歴史観を両論併記するわけでもなく、どういうわけか韓国や北朝鮮の主張に軸をおいて、それを記述しているだけです。およそ入門書とはほど遠い内容だと思います。
入門書を必要とするレベルの人が読むとこの本の記述がスタンダードとだと思ってしまう危険性があります。入門レベルの人は、まず正確な論証をバックボーンに持つ客観的な事実だけを身につけ、その後に日本の主張、韓国・北朝鮮の主張の双方を見てこそ中立的な判断を下せると思うのですが、この本は相反する主張を持つ歴史認識でも、一方のみに軸を置いているので、この本を最初に読んでそれを信じてしまうと双方の主張を見て判断する思考が阻害され、韓国や北朝鮮の主張のみしか受け入れられなくなる思考停止の危険があるのです。
あくまで客観的な事実を引用するのではなく、著者自身の左翼的な考えを中心に歴史を見ているだけなのが入門書として相応しいかはどうかは自明と言えるでしょう。
左翼系論者が多用する手法を使用と述べましたが、これは客観性を装うために同じ主張の論考や、自己の主張に沿う断片的な事実を引用していることを言います。基本知識がない人が読んだ場合に、韓国や北朝鮮の反日的な捏造でさえ、それが正しい信じてしまう危険性まではらんでいます。
ここのレビューでは本書は受けが悪いようだが、本書が概説的な入門書である以上、個別テーマを扱った学術論文並みの論証を期待するのは無理である。ただし、幾つか出典の明記されているものもあり、掘り下げて考えたい人には確認の道が開かれている。また、「売国奴」李完用!の関防印の話(116-7頁)などは、外圧の下、親日派と反日派の区別がいかに付けにくいかをよく物語っている逸話である(今の日本右翼の対米観を見てもわかるが)。
もっとも、中塚氏には天皇に日本の問題性が集約されているかのような逆の過大評価が見られたり、学問の客観性を強調しすぎている所があるように感じられ、その点には私は批判的である。ただ、著者自身の立場が分りやすい点は、なまじ中途半端に中立性を装い、無自覚なまま片方に肩入れする記述をする本よりは、信頼できる。どんな本であれ、完全に中立な本などないと私は考えるので、実際に本書を読んだ上で、違和感を感じた方は、他の関連書をいくつか読まれることをお薦めする。