「乙女のまま清く死にます」
★★★★★
実はこの話は、畠山みどりの「氷雪の門」でしか知りませんでした。歌詞ということもあって、その内容についてもしっかりとは認識していなかったのが実際です。ですから、学生の時、稚内に行った時も「氷雪の門」の記憶はあるのですが、「九人の乙女の碑」については見たのかどうか覚えがありません。
今回この本を読んで感じたのは、二十歳前後の女性達がその仕事に「使命感」を感じ生命までも賭したということに、深く感じ入りました。
そこには、戦時下と言うこともあり、そうした教育を受けて育ったのでしょうが、「仕事に生命を賭ける」と言う彼女らの情熱を強く感じます。今の世の中では感じられないことです。
ただ、そうした彼女らの「心」を踏みにじるような役人、官僚の厚顔な言動には憤りを覚えます。
そもそも責任者の男たちが、何故その現場に居なかったのかが問題です。そうすれば、若い命を失うことはなかったかも知れません。
もっと大きく言えば、戦争は結局弱いものたちをその犠牲にするものだな、と言うことを改めて感じました。
「乙女のまま清く死にます」
重い言葉です。
資料価値は高いが、死者への非礼やミスリードの多い著者の態度は目に余る
★★★☆☆
終戦後もソ連が侵攻を続ける中、真岡郵便局で最後まで職場に留まり自決した「九人の乙女」を取り上げた作品。類書が少ない(帯には唯一のノンフィクションとあるが、これは間違い)ため、追加取材を踏まえて新たに刊行された本書は貴重。元交換手や遺族の証言も多く資料としての価値は高いが、死者への非礼やミスリードの多い著者の態度は目に余る。他の文献との併読を勧める。
■死者に鞭
著者は「そこに男子職員や、上司がいたならば集団自決に走ることは避けられたと断言できる」と書く。駆け付ける途中ソ連兵に撃たれて捕らわれた局長に対しては、弾の合間をくぐり抜けて走れと事もなげに言う人物の言を持ち出したり、辿り着けなかったのは「重大な瑕疵行為」だと非難したりしている。挙句の果てには最後に自決した女子交換手に対し、「せめて高石ミキが服毒したあたりで電話連絡を入れていたら九人もの犠牲は防げたのではないかと思える」などと書く。局長は特に非難されているが、参考文献をあたると著者が多くの情報操作をしていることがわかる(例:「血書嘆願」は主事の報告によるものだったこと、帰還船に交換手も乗っていたこと等の隠蔽)。
■自説への強引な誘導
自決当日の局内の描写は著者の「再現」によるもので、ほとんど小説仕立て。ただでさえ生還証言者が少ないうえ、銃砲撃の真っ只中だったにも関わらずやたらに詳しい台詞や動作の描写が続く。しかも、誰の証言によるものか殆ど示されていない。交換手たちはソ連兵に辱めを受けるのを恐れて自決したのではない、また覚悟を決めて自決したのでもない、パニック状態の連鎖反応で自決したはずだという自説へ強引に誘導しようとしているのが露骨に見てとれる。著者の「再現」描写は元交換手・桜井千代子の手記にある生還交換手証言とは全く異なるし、生前の交換手や遺族の証言とも食い違うのだが、それらに対する説明もまるで成されていない。