物語の進行も一筋縄ではいかない。のっけから救急車、パトカー、警官、医師、さまざまな隣人が、脈絡なく登場するところなど、サスペンス映画の出だしのようだ。細部の感覚的リアリティーに執拗にこだわる文章にも、リリカルな、詩人特有の意表を突く表現が多い。
結婚、離婚、再婚を繰り返す画家志望の母親、乱暴だけれどどこか心優しい、石油会社に勤めるブルーカラーの父親。アルコール漬けの危ない母親を見張るしっかり者の姉。主人公はじっと見守っていてくれる「父の娘」で、父親といっしょに出かける釣りやゲーム仲間「嘘つきクラブ」のアイドル的存在である。
やがて、ガンになった母方の祖母が同居するようになり、家の空気は一変する。祖母の死後、精神的に追い込まれた母親が家に放火、病院に収容されて…。
これはまさに、男と女、親と子、嘘と飲酒をめぐる修羅場を生き抜いていく、少女たちの壮絶なサバイバル物語だ。最後に明かされる、母親の最初の結婚をめぐる秘密が、大きなカタルシスとなって作品全体の謎を解くのだが、それは読んでのお楽しみ。
人は絶望によって嘘をつく。そして、嘘というのはつけばつくほど人の内面を食い破る。アメリカンユーモアとは、そのことを覆い隠すための、壮大な、そして悲惨な様式なのではないか、とさえ思わせるほどだ。じわじわとにじみ出てくる真実、それを知った読後感が、なんとも切ない。米国では各紙で絶賛をあびた長期ベストセラーの作品。
続編にあたる思春期編『Cherry』が2000年に出版された。本書の邦題は『うそつきくらぶ』。(森 望)