本書の依頼は、黒人警察官が射殺された事件をめぐる再調査。依頼人は被害者の母親。事件後マスコミにあることないこと書かれた汚名をそそいでほしいというのだ。事件は、1年前にさかのぼる。黒人男性が、白人男性を路上に組み伏せ、銃を向けているところへ、警官2人、テリー・クインとユージン・フランクリンが通りかかる。非番で私服だった黒人男性が警官だとは知らず、2人は銃を向ける。発砲したのは、テリー・クインだった。ユージンは黒人、テリーは白人。だからといって、ユージンとチームを組んでいるくらいだから、むろん、テリーが人種差別者だというわけではない。
調査に乗りだしたデレク・ストレンジは、事件後、警察を辞職して古本屋に勤めるテリーに会いに行き、2人は意気投合する。25歳の年の差を埋めたのは、ウェスタン談義だった。テリーはけんかっ早くなかなか危険な男。内部に、どす黒い悪魔を抱えながら善人を気取っているようにも見える。しかしデレクは、テリー・クインを探偵の相棒に抜擢。2人はコンビを組み、隠された事件の真相に迫っていく。
全編を色濃く染めるのは、黒人と白人の人種問題。人種差別の根は深い。うわべは克服されたかに見えても、たとえば、銃を抜く一瞬を決めるわずかな瞬間に、差別意識は顔を出してしまう。そしてデレク・ストレンジがそのことにさして動じないのは、彼が黒人であって偽善の中の真実を常に突きつけられて生きてきたからなのだろう。
それぞれの登場人物の視点で語られる断片が、線で結ばれていく骨太の構成。デレクの恋人や母アルシーとの絡みが哀愁を誘い、1遍の映画を観ているようだ。(木村朗子)