トイレで読む仏教本ですね。と書くと、なんだかビロウな話でこの本の価値を貶めようとしているみたいですが、そんな気持ちは全くありません。そうではなくて、仏教徒たるもの、一日中、頭のすみっこででも仏法のことを思っていなければならず、それは毎日の排便・排尿時でも同じことです。そこで、この読みやすくて、しかも仏教の要点をついた一冊がトイレの中で必要になってくる、というわけなんですね。
増谷さんが仏教について語る際に、一番おもしろくなるのは、ブッダの弟子たちにまつわるエピソードにふれられる時です。ここに、彼の人間洞察の鋭さがにじみ出るのです。これはもちろん、増谷さんが、自分は死ぬまでブッダの弟子のひとりである、と確信していたためでしょう。自分の理屈を振り回して悦に入っている生半可なインテリとは違う、人間へのやさしさに裏づけられた仏教が、ここにあります。