自己の戦記ではなく小説です
★★☆☆☆
陸軍精鋭部隊の豹兵団がフィリピンの守備に投入され、米軍、現地モロ族などとの戦闘と、無念の敗走の様子を描いた小説。著者である荒木iいさお)氏本人も同戦地で戦った将校であるが、自己の戦記ではなく高瀬少尉を主人公とした小説の形態をとる異色の戦記作品。
戦闘らしい戦闘はありません。むしろ敵は米軍というよりも自軍の補給軽視思想と大いなる自然なんです。せめて戦って死花を咲かせたいと思いつつ倒れていった兵が多かったことが哀れでなりません。補給を軽視し、大和魂のみによって泥沼の戦いを強いた上層部の罪は大きく、とても容認できるものではありません。
終戦を迎え、収容所での生活を経て物語りは終わります。読後は虚無感ばかりが残り、戦争の悲惨さ、哀れさを感じる一冊。個人的には荒木氏自身の戦記だと思って買った本でしたので少し残念でした。しかし表面的な格好良さ、部隊の戦果などを誇る戦記とは全く異なり、局地的で人間の極限状態における本質に迫る異色の作品といえる。