全体を5章+巻末付録に大別し、順を追って呪術とは何か、動かしているのはどのような原理でどんな思想なのか、歴史上ではどのような実例があったのか等『呪術』を多面的に解体・解説していく。カラー写真は『日本呪術紀行』と題した日本各地の呪術的な聖地の写真(恐山・イタコ市、死霊婚の川倉地蔵堂、民間信仰渦巻く石切神社周辺等)と、オシラサマやイラタカ数珠、呪詛人形に大神の頭骨といった「呪術の法器」を紹介する『「呪物」展示譜』の二つとなっている。
本編では、見立て・言葉・神憑り・魔除け・呪い・結界・まじない、といった呪術に関する7つの言葉の意味を、駒沢大名誉教授の佐々木宏幹氏が多面的に解説し呪術の根源思想を語る『呪術のキーワード』に始まり、巫者(シャーマン)とは何か、そこに至る道は?、そしてどのようなことを行いどんな法具を駆使するのか、と徹底的に「巫者」について書かれた『呪術者誕生』と続く。
第三部『呪術者群像』は、呪禁師、陰陽師、修験者、密教僧などの呪術を行う者をタイプ別に分類、解説する。続く『実践呪法の世界』は本書のメインとも言える内容で、呪術とは何かという本質を説く事に始まり、呪法の三要素(呪文・呪物・作法と結界法)といったプロセスの解説、そして圧巻の「日本呪法総覧」にては呪いのバリエーション(符呪、呪詛返し、厭魅、使鬼神法等等。)を具体的に解題。各呪法に多少の紹介有り。
最終章『呪詛と禁厭の日本史』は読み物で、『小右記』や『紫式部日記』、『阿娑縛抄』等に見える呪術譚や川中島合戦の呪術的側面、徳川綱吉にまつわる呪術因縁等を短めの文章で紹介している。巻末付録『まじない大百科』は、呪詛、厄除け、魔除け、呪術治療など用例別に「タマムシで意中の人に愛される」「年の初めに若水を飲む」「青夫銭で使った金が戻ってくる」等のまじないを具体的に、それにまつわる話とともに紹介している。
今回は民間信仰ということで、密教の本等に見える荘厳さや静謐さは無いが、そのぶん身近に迫ってくるような気迫に溢れている。個人的見解だが、もう少し呪術の実践方法を載せて欲しかった。例え実践する気は無くとも、知識として仕入れたいとこのような本の購読層の大半は考えている筈だからだ。というわけで、本書は呪術を学問的に識りたい方には特にお勧めできるが、呪術の実践方法を中心に知りたいという向きには少々役者不足かと。