もう一歩踏み込んでほしかった
★★☆☆☆
当該分野の技術者が読めば、全然分っていないねで終わるので害はないのですが、そうでない人には一見もっともらしく映るかもしれません。現場を知らない学者たちが机の上で既存の理論の「モジュール」を並べて繋いだだけに感じます。
第4章の論文を例に説明します。冒頭から連続して引用し、一文毎に感想を書きます。
本書 本章で展開するロジックと結論を先取りすると、以下のとおりである。
注釈 以下、結論とそこに至る論理の展開が述べられます。
本書 製品には、摺り合わせ型(インテグラル)アーキテクチャとモジュラー・アーキテクチャの製品がある。
感想 製品が二つの「型」にきれいに分かれるのでしょうか。摺り合わせとモジュールという、二つの基底要素の一次結合(つまり、「製品の製造技術の様式」=a×「摺り合わせ要素」+(1-a)×「モジュール要素」)と見るべきです。余計なことかもしれませんが、文章も幼く見えます。詩人になれとは言いませんが、もう少し論理的な文章を書いて欲しいと思います。
本書 製品アーキテクチャと組織能力の間には相性があり、日本企業は摺り合わせ型製品に、新興国企業はモジュラー型製品に適した組織能力を持っている。
感想 前半は重複するので不要です。後半はこう断定して良いのでしょうか。新興国の技術もすり合わせ化してきています。
本書 新興国企業のキャッチアップ期間が短縮したのは、モジュラー型製品が増加したことによる。
感想 モジュールの要素が増加したのは事実ですが、それだけが原因でしょうか。
本書 しかし、モジュラー型製品が増加したのは、すり合わせ型の技術ノウハウが、ファームウエアや特定部品、あるいは生産設備に埋め込まれた(カプセル化)からである。
感想 たとえば、アナログからデジタルへ、あるいは機械部品から電子部品への移行の過程で、何かが埋め込まれましたか。
先進国は「摺り合わせ型」、新興国は「モジュール型」という二元論だけでは説明できないように思います。上に少し書きましたが、技術自体がモジュール化を容易にするように進化したこともあります。
さらに、一番大きいのは人材の流動化です。新興国の企業は日本企業を退職した若手や中高年の技術者から技術を積極的に吸収しています。ハードディスクの工場を建てたときに現地の技術者を採用しなかったのは、雇用の確保のためです。その原則を捨て、人材も捨て、捨てた技術者が敵に送る塩になったのです。
解雇した技術者の代わりに派遣技術者を補充しました。もはや社内でノウハウの開発はできず、装置メーカーに工程の開発を丸投げしました。生産設備に埋め込まれた部分もあるかもしれませんが、設備を導入して電源や水やガスを繋げば製品が出来るというものではありません。装置メーカーがそのノウハウを新興国の設備の立上げのときに伝えているのです。
この論文に限らず、考察の多くが浅いのです。大先生の説は疑わない、何か一つ思いついたら考えるのを止める、他人の論文をモジュールのごとく集めて来て並べただけ。国民の税金を使い、将来の日本の柱となるべき学生たちを預かり、明日の日本の技術を育てる土壌を作る仕事をしていることを忘れないでください。もっと広く、深く、長く考え、真に役に立つ提言をしてほしいと思います。
ブームではあるけれど
★★★☆☆
批判を承知で。
経営学の世界ではコモディティ化を扱った研究がブームのようです。急激な価格下落の要因を
なんとか解明しようということなのでしょうが、この本もそうですが結局同じ領域の研究者=
ものづくり研究者による研究のため、問題の本質に十分迫り切れていません。
コモディティ化の問題は製品開発組織の問題や、技術論だけでは解決できません。むしろマー
ケティングや消費行動、社会学など幅広い分野からのアプローチが不可欠であり、そのような
多様な視点からの議論を含まない限りわかったような気になるだけで、結局は実務では役に立
たないように思います。
また執筆者のレベルに違いありすぎるのも、この本の問題点のように思います。オムニバス本
にはありがちですが。
何を、どうすべきか?今まさしく、エレクトロ産業は岐路に立っています。
★★★★★
バブル崩壊後の日本は厳しい経営環境が続き、エレクトロニクス産業は、商品開発リードタイムと開発コストの半減化を目指すと同時に、ビジネスチャンスに合わせタイムリーな市場開拓と商品ライフサイクルの加速化を展開してきた。
当時、エレクトロニクス産業各社では、速く(高速化→リードタイムの短縮化)、正確に(高精度化→高品質、高品位化)、安く(低コスト化→高競争力化、市場の独占化)をモットーとし企業ミッションとしたために、高効率な開発体制を構築し、最速にキャッシュが得られる優先的採択といったことで、知恵を絞り必死になって奔走したものである。
その結果が、今となっては、コモディティ化と直結するのでよろしくないと言われるのは大変残念なことである。
当時、本書の著者とは面会させていただき、日本のエレクトロニクス産業におけるデジタルエンジニアリングに対して活発な動きをしていることで、その素晴らしさを共有し熱く語り合ったものでした。
特に強い反論ではないが、早くて安くて高品質といった商品の開発効率を考えるとコモディティ化がやはりベストな手法であり、コモディティ化により、海外への技術の流出については避けられないものである。
技術流出は当面の回避はされていてもいずれは流出するものであるとも考えられる。自然淘汰かもしれない。
本書の著者陣は学者さんであるため、エレクトロニクス産業に関して研究してきた成果を学術的に論述しており、論点が分類・整理されており明確である。
日本の未来を展望するには本書を一読し、デジタルエンジニアリングの歴史をレビューすること。そして次期ステップに向けて、知恵を出し合い新しい展開を育むべきことと思う。
収益の上がらない日本の先端技術産業を考察
★★★★★
書籍の狙いは『何故,日本の先端技術産業は収益が上がらないのか?』である.執筆者はそうそうたるメンバー(国内経営学では有名どころばかりが集まっている?)で,デジタル家電(光ディスク,HDD,フラットテレビ,半導体など)を具体的な題材とし,コモディティ化に際して価値獲得に失敗した原因を考察している.
つい先日(2005/12/10)に出版されている,榊原慶応大学教授の『イノベーションの収益化(有斐閣)』から更に一歩前進した,ルネサンスプロジェクトの研究成果をまとめた形での記述になっている.
結論として,継続的・持続的な成功のためには,市場開拓初期から成熟期に至るまで,成長に挑む経営の強い意志と,それを支える知識とスキルがこれまで以上に必要である,と締めくくっている.
先端製品といえども必ずマス・ボリュームゾーンに移行するので,これまでのように作れば売れる時代には逆戻りできない.ここで台湾・韓国・中国に勝ち残って行くには,相当の知恵と努力が必要になることは言うに及ばないことではあるが,これを再認識する上で,参考になる一冊と言える.
イノベーション・コモディティ化・収益を中心に理解を深める
★★★★★
「イノベーションを収益に結びつけるとはどういうことか」
「コモディティ化が発生する条件やプロセスは?」
こういった疑問に、的確に、かつ豊富な事例を用いて答える。
例えば、HDD産業分析が面白い。
イノベーションに重要な人材・技術獲得という視点から「立地」に注目し、アジア市場を分析した。
その「産業クラスター」概念は、マイケル・ポーターの『国の競争優位』以上に動的で、具体的に聞こえる。
さらにクリステンセンの「イノベーターのジレンマ」仮説では説明のつかないシーゲートの競争優位や日本企業の収益低迷にも解説を加える。
そのほか、薄型テレビやDVDレコーダーといったデジタル家電、光ディスクや半導体など日本企業が技術面で先導したにも関わらず必ずしも競争優位と収益獲得に至ってない分野への調査も充実しており、魅力的なケース分析となっている。
一方で、本書でも紹介されたデルの事例がある。
コモディティ化をむしろ「強み」に変えたデルの戦略を本書の立場ではどう解釈するのか、私はさらに知りたい。
そういった興味を誘うほど、「イノベーションと競争優位」の関係を整理できた点からも、本書の価値は高いと考える。