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峠に棲む鬼

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本
ブランド: 文芸社
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一時代を築いた傑作、堂々の復活! ★★★★★
 待望の新装版発行である。夢枕漠の解説はほとんど役に立たないし、ここでひとつ現代感覚に溢れたイラストを満載して欲しかったという欲も湧くところだが、この英断に満点を差し上げたい。

 「峠に棲む鬼」は西村寿行が国民的人気作家として脂の乗り切っていた1978年の作品である。社会派サスペンスの気鋭としてデビューした氏が、ハードなバイオレンスアクションの担い手として力作を多数発表していた時期に、この作品はある意味で寿行ロマンの遍歴の分岐点、エポックメイキング的な役割を果たしていた。それまで女性というものを「男にとって何物にも代え難い愛しいものだが、戦いの中では足を引っ張る邪魔者」としてしか扱わなかった西村寿行作品が、女性・逢魔麻紀子を主人公にしたのである。しかも日本有数の製薬会社に社長秘書として活躍し誰もが惹かれる美人である彼女は、故郷に帰れば何と一子相伝の奥儀を伝えられた杖術の使い手、いかなる手練れの男をも一撃で絶命に至らしめる「闘う女」であり、さらに、この杖術・明鏡流は「己が面の映るが如く、敵を己が鏡に移す」という奥義の境地に至るべく、命を賭けた戦いの時には「依頼心も羞恥心も捨て己を無にする」ために何と全ての衣服を脱ぎ捨て全裸にならねばならないという美味しすぎる設定!
 このように本作はある意味男の情念よりも、ビジュアル的な「ヒロインの絵」を見せてくれる話であり、そしてこの色白彫り深く素晴らしい身体を持つヒロインは、もちろん敵の姦計に捕えられ、美しい饗宴に供されることになる。今でこそアニメ的・オタク的と片付けられるこれらの作劇パターンに、70年代の「時の人」が踏み込んだ瞬間のスリリングさを味わえる数少ない逸品である。新聞連載ゆえ構成に難のある見せ場の羅列との批判はあろうが、凡百のドラマが人間の肉体を離れて観念化しつつある現在、なかなか味わうのが難しい貴重な時代の「肉感」をストーリー、描写ともに感じさせてくれるだろう。この新装版発行を機に、ぜひ多くの人の手に取ってもらいたい。