疑問が次々に湧いきて頭がいっぱいになった
★★★★★
スリリングな情報が次々と展開され、興味が尽きないと言う点では、☆5つである。
本書はクライン派の精神分析を英国で修めた、心理療法家の手になるものである。
著者は、大学院時代、ユング派の河合隼雄氏にみせられ学ぶが、河合氏の理論が
「あいまいで疑問点がたくさんある」こと、周りの院生が「世渡りを上手にして
大学の教員のポスト得ることを優先している」ことに失望してロンドンに留学する。
そこでであったのが、クライン派の心理療法を実践訓練するタビストック・クリニックであった。
本書はそこでの訓練と実践の記録である。
本書を読んで、私の頭の中には次々と疑問と疑念が湧いてきた。
以下にそれを列挙する。
同クリニックでは、心理療法の訓練のために乳児の観察が必須であるが、著者は
英国在住の若い日本人夫婦の第一子である男児の観察を、7ヶ月以上にわたって行い、
その挙動を、母親の様子とともに詳細に記録する。その描写は私には、
具体的なシュールレアリズムを見せられて売るようで、少し、恐怖さえ感じたのである。
(以下、二重鉤括弧は私の疑問や疑念である)
『子供の挙動にはすべて意味を読み取ろうとするが、本当にすべてに意味があるのだろうか』
クライン派の自閉症に対する立場は「自閉症は子どもの内在的要因と母親との相互作用の一つの顕れ」
だそうだが(これ以外にも立場があるが略)『本当にそう思っているのだろうか』
また、著者は、アスペルガーと診断された16歳の黒人青年の心理療法を行っているが、
『この青年は確かにアスペルガーなのか』
『この青年に発現しているのは、自閉症そのものではなく何らかの精神障害が引き起こした二次的な障害ではないのか』
『窓ガラスを割るなどの問題行動を予測し、それを止める方策はとらなくてよかったのか。
(自閉症ならそうならないための他の方法論はいくらでもある)』
『母親にネグレクトの傾向があるようだが、それを改善する方策はとらなくて良かったのか(行政に訴えるなど)』
そして最後に
『青年との心理療法は、どうなれば、理想的な終了にできたのか』
などである。いずれにしても、この分野の素人である私の読解能力では、完璧には読みこなせていないので、
もう一度読んでみる心算である