近江の部分が面白い
★★★☆☆
「京都の秋」とは余りにも定番過ぎるので、次は「夏」から「冬」に跳ぶと思っていたのですが。中身は、大分、構成に苦労したあとも伺われるようです。奈良や宿坊の紹介まで話は拡散しています。京都の美味も、洋食店やワイン食堂、パエリヤまでが取り上げられるほどです。
今作品の売りは、近江にさかれた50ページものスペースです。近江、特に湖東の四寺を中心とした「紅葉狩り」のすばらしさが詳しく紹介されます。そしてこれまで余り紹介されなかった近江の美味もです。最後(207ページ)は、近江絶賛といってもいいほどです。この近江へのスペースの配分は著者のような京都人にとってはなかなか複雑な感慨があったものと想像されます。だって京都の人にとっては、近江は「鄙びた場所」という固定観念が強いはずですから。
近年の京都のあまりものマーケティング志向と田舎物の京都への参入(京都は動いている)に著者は辟易しているようです。京都の消えた面影を、奈良や近江に求め始めたのかもしれません。「食の店、そして宿。次から次へと開かれ、一方で長い歴史を閉じていく。変わらぬ姿で今も鮮度を保っているのは稀有なこと」、その稀有を探していくのが著者の狙いなのでしょう。これからも期待してます。