植物と人間の長い歴史と今も続く複雑かつ面倒な関わり合いへの深い洞察と愛情
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植物と、いや作物というべきかもしれませんが、人類が集団で生活し、都市文明を興した、食料増産と環境破綻の歴史を淡々と、敢て植物側からの視点でなぞって教えてくれます。その語り口は何ともユーモアと優しさに(一見)溢れてすんなり頭に入ってきます。環境団体に勤務した経験を持つ著者が、植物と人間の関係を知りつつこういった本を出してくれるのは非常にありがたい事です。植物を追いかける人間の執念(植物がほくそ笑むわけですが)は最近出た「フルーツ・ハンター」を思い起こします。そして古くはエルトンのアカデミックな「侵略の生態学」なども。
一方実際にイングリッシュ・ガーデンに奮闘される著者の記述にも同情。大変でしょうね。元々は相性が良くない土から世話するわけですから。ここはかのターシャさんもそっくり土壌入れ替えましたし、ロンドンのキュー・ガーデンも一見自然に見せて実は恐ろしいほど管理してますし、あれが英国の理想の庭としますと。こういった歴史と実際の作業過程(肥料の必要性含め)が交互に出てくる構成も読者を引きつけるものがあります。そこで浮き出されるのは、著者も控えめに、でも繰り返して伝えるメッセージは、温暖化でもエネルギーでも食料でも環境でも、それはヒトの人口増加が、大きなアンバランス(ヒト個体の異常発生が植物の異常発生を要求し、それが次の異常発生をもたらす悪循環と脆弱性、できなくなると破綻)に至った現在に対する危惧でしょう。ソフトな語り口に、「もう実は遅すぎませんか」という警句が込められているような気がしてなりません。良い本を読ませていただきました。