最後の版は寛永18(1641)年。全面的に書き直し、巻末に12問の解答を出さない問題を含めている。江戸時代から明治時代にかけて、塵劫記はその塵劫という名前のとおりに、長い年月を経ても変わらずに読まれ続けた。海賊本も多く出回ったらしい。また塵劫記の読者の中から、関孝和をはじめとする和算の数学者たちが育っていった。そうした数学者たちの師弟関係を示す系図も出ている。
吉田光由は塵劫記の執筆の際、それまでの数学書になかった工夫を凝らしたという。たとえば掛け算九九について、中国の数学書は「九九・八十一」から始めているが、彼は一の段からに直し、次いで一の段を省いて「二二が四」から始め、さらに「三二が六」は「二三が六」に含めるなどの工夫をし、36通りだけ暗記すればいいように改めている。
本書の末尾には、本書の著者が撮影した初版本の印影が約60ページにわたって収めてある。数学史の本としても、パズル史の本としても、十分に楽しめる1冊である。(有澤 誠)