「ドイツ的」と言う前時代的な表現からベートーベンを解放した現代的な演奏ですね。
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このギレリスの盤は、音場の広がりも透明感が有って奥まで見える感じです、ECMっぽい気すらします。 そんな晴れた冬の日の透き通って冷え冷えとした空気感、枯れ木立の中にぽつんとピアノが置かれていて独りギレリスが弾いてる、そんなイメージですね。 ワタシがギレリスを聴こうと思ったのは最近ハマったアファナシエフの師匠だからです… クラシック素人のワタシが聴いて似た所が有ると思った、「悲愴」の第一、第三楽章は確かに全然違うなと思いましたが、第二楽章はアファナシエフも同じ様な表現をするんじゃないかと思いました。ビリー・ジョエルの「ディス・ナイト」のメインメロディーでもある第二楽章がワタシは大好きです。ギレリスは美しい旋律を慈しむ様に丁寧に紡ぎ出してる、柔らかく甘いと言っても良いくらいに心地好い音ですね。全体に力強いとは思いましたが、それがますます優しく語りかける様なピアニッシモを強調している感じで冷たいと言う印象は無い、先に述べた通り音場は冷え冷えとして透明感が有る、それもまたギレリスのふとしたフレーズに垣間見る暖かさを際立たせている気がします。 押し付けがましさやくどい表現も無く、かと言って理解を拒む様な高慢さも無い、楽曲の本意を誠実に汲み取り毅然として提示しています。
シベリヤの凍てついた冬の夜の湖面に映える「月の光」
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ココのレビューでも散々書かれている枕詞、「鋼鉄のピアニスト」、ギレリスのベートーヴェン。私はギレリスのベートーヴェンは好きです。でも、嫌いという人がいてもおかしくない演奏だとも思います。
ギレリスの演奏は、「月光」を例にとって言うなれば、誰もいない人里離れたシベリヤの森林の中にひっそりと存在し続けた湖の水面に映し出された月の光。そこには人の手垢、人の気配、いや、人の名残すらまったく感じられない。ただただ透き通った湖面に、青白く光り輝く月光。人間の介入をあくまでも拒み続ける、そんな厳しい自然の、透き通った鋭角的な美しさをたたえた演奏といえると思います。
そのある種冷徹なほどに澄み切った演奏を是ととるか非ととるかが、この演奏をチョイスするかどうかの分かれ目かもしれません。この演奏を聴いて、自分の音楽的な好みを判別してみるのも一興かもしれませんね(笑)
因みに、星の数でわかるとおり、私はこの演奏が大好きです。
とても参考になりました
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ベートーヴェンのソナタを練習していて、いろいろな演奏を
聴きましたが、一番よかったと思います。
上手いと、ついさらっと弾いてしまう演奏家が多い中、一音一音よく
作りこまれているなと感じました。
知性と倫理によって統御された完全な「熱情」
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エミール・ギレリスは「鋼鉄のタッチ」とも称された比類なき芸術性を秘めたピアニストである。彼の演奏は完璧な技巧と奇を衒わない正攻法の解釈に基づいているため、曲によって出来、不出来というはっきりとした差は全くと言ってよいほど現れない。音色や響きはどちらかと言えば冷たいと感じられるピアニストであるが、ポリーニ程ではないし、決して音楽が無機質なものにならないのは彼が音楽的知性による統制と抒情が類まれな次元で調和しているからであろう。このような芸術性を備えたギレリスは必然的にベートーヴェンの音楽を表現するに当たって最も規範となる演奏家に違いない事はすぐに推測できる。事実、「ミスターベートーヴェン」評されたほど、ベートーヴェン演奏において偉大な足跡を残した。同じくベートーヴェン演奏の権威と言われたバックハウスの古武士のような風格、ケンプのような思索とは異なり、またアラウ程の深みもないが、彼らにある癖のようなものが全くない。つまり、すべての表現が全体の中で見事に調和して存在しているのである。人によっては真面目過ぎて、つまらないと感じる人もいるだろうが、これほどの水準と完成度に達している演奏はほとんどないだろう。
その中でも特に、「熱情」はまさにこれ以上ないといえるほど完全な演奏である。リズム、テンポ、強弱、ダイナミズムがすべて倫理と知性によって統御されており、無上の形で表現されている。フォルテは地響きの如き力を持っているが、統制され、考え抜かれているため、決して安易なヴィルトゥオーゾには堕していない。最初から最後まで緊張の糸がピンと張った真の「熱情」の世界である。この一曲でも偉大な価値を持つ演奏と言えるだろう。
いまや伝説となったギレリスの名演奏が1000円とは・・・絶句!
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作曲家に対するイメージというのは人様々と思いますが、ギレリスのピアノは、まさに私がベートーヴェンに抱くイメージそのものなのです。例えば、月光の第三楽章。猛烈な疾走感、「鋼鉄の巨人」のイメージそのものの強烈な打鍵、冷たく硬質なピアノの音が、行き場のない激情をピアノに叩きつけるベートーヴェンの姿を彷彿とさせるのです。”巨匠”といわれるピアニストでしばしば「アレッ?」と感じるくらいの不自然なテンポ・ルバートが聞かれますが、ギレリスの演奏は、もちろん歌うところはキッチリ歌っていますが、自制の効いた演奏とでもいいましょうか、押しつけがましいところが全くない、何の違和感なく耳に入ってくる自然体の演奏です。”ミスター・ベートーヴェン”の演奏が存分に堪能できるこの名盤がたったの1000円とは安すぎ!。収録曲も3大ピアノソナタと言われる、悲愴、月光、熱情と言うこと無し!。ベートーヴェンのピアノソナタのゴールドスタンダードとして、このCDは絶対にお勧めです。