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パワー (西のはての年代記 3)

価格: ¥2,205
カテゴリ: 単行本
ブランド: 河出書房新社
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ル・グウィンは裏切らない 最良作 ★★★★★
アーシュラ・K・ル=グウィンの「西のはての年代記」の第3巻、最後のお話しです。

「ギフト」「ヴォイス」と続くこの本は、原題は「Powers」で複数形です。前2作も複数形だったのですが、今回のパワーには深い意味があります。

この作品を通したテーマが、Gifts(ギフト)でした。パワーでも様々な場面でギフトが出てきます。しかし今回のメインテーマは、やはりパワーです。

個人的には物語がこのように転換するとは思っていませんでした。
ギフト、ヴォイスをパワーに転換させる想像力は並大抵のものではありません。
ル=グウィンの構想力に脱帽するばかりです。

人が生きることとは。人が皆が持っている力を出しながら、人それぞれが全く生きることが出来る世の中を作るために努力していこうよ。その責任がみなにあると言っている。それがギフトであり、ヴォイスであり、パワーである。

自由と民主主義について深く考えさせる作品です。
大人向きの本ですね。超お勧めです。
3部作を読み終えて ★★★★☆
西のはての年代記3部作はさすがにル・グウィンの作、緻密に作り込まれた架空の世界での物語が生き生きと描かれています。とても面白く各々1〜2日で一気に読んでしまいました。しかし、アースシーの物語(ゲド戦記という邦題が私は嫌いです)を読んだ時(もう大昔ですが)のような、全く新しい世界に触れるワクワク感のようなものは感じられませんでした。既知の世界を違った視点、角度から観ているという印象です。
3部作では西の果ての世界の中の3つの地域での全く別々の物語が語られていて、それぞれに主人公は異なりますが、主人公たちは関わりを持ち、最終的には一堂に会することになります。
主人公たちに共通しているのはそれぞれの血筋に関わる「力」を持っているということです。
その血筋の宿命、束縛から第1巻の主人公は解き放たれ自由になります。第2巻の主人公は自ら宿命を背負い受け継ぐ決意をします。第3巻の主人公はむりやり断たれた宿命の下で自らの道を求めて彷徨い最後に自立する道を見出します。それらの物語の中で、人間の尊厳とは、信頼とは、愛とは、自由とは・・・といったテーマが繰り返し問われ続けます。
とても重く悲劇的な物語です。特に一番長い(やや冗長にも感じられる)第3巻は暗く哀しい話の連続で救いが見出し難く思われます。悲劇を乗り越えての主人公たちの明るく前向きな姿が唯一の救いであり、希望の光なのでしょう。
読み終えて、人生とは、生きるとは何なのかということについての、ル・グウィンから若者へ向けての渾身のメッセージ、問いかけの書なのかもしれない、という感がしました。
秀作だと思います! ★★★★★
「ギフト」「ヴォイス」そして「パワー」。どれもその世界にぐいぐいと引き込まれる、すばらしい作品でした!
中でも「西の果ての年代記」三部作の最終巻である「パワー」は、過酷な運命を辿る主人公と共に、様々な感情が胸に沸き起こり、時に苦しくなるほどでした。
その全てを乗り越えてきたからこそ、オレックの元に辿りついた場面では、重い扉が開き、眩しいほどの明るい世界が開けたような、重石が急に取り除かれたような思いに、にわかに信じられないような思いがし、思わず涙がこぼれました。

私たちは奴隷制度のなかで生きている訳ではありませんが、自由とは?本当に私たちは隷属してはいないのか?思わず考えずには居られません。

様々な感情が細やかに描かれているだけに、まるで一つの人生を生き抜いたような、あるいは思い出したような、不思議な読想感でした。
支配・被支配の問題 ★★★★★
いよいよこの「西のはての年代記」シリーズ最終巻です。
第一巻は「北」、第二巻は「南」、そして第三巻は中央の都市国家を扱っています。
主人公は、ガヴィアと言う少年です。
(カスプロ、グライ、メマー、そしてシタールが最後に登場します。)

ガヴィアは水郷地帯の出身者ですが、都市国家エトラの少年奴隷で、一緒に連れてこられた姉サロと暮らしています。
ところが、サロが殺害されるという事件があって、ガヴィアは逃亡します。
その後、自由独立を旗印にしている<森の心臓>に住み、そこから出生地水郷地帯に向かいます。
その後、<ヴィジョン>に導かれてメサン(ウルディーレ)に向かいます。

このガヴィアの物語は、冒険小説として一気に読み切れる楽しさがあります。

この三巻を通して、様々な奴隷制度の形態が示されます。最期の地ウルディーレは、そうした奴隷制度のない自由の国として描かれています。
今回のガヴィアは、当初温かい家族的な雰囲気の中で、その奴隷制度に何の疑問も持っていません。彼は、放浪する中で、「自由」の意味を徐々に理解して行きます。
それと同時に、<森の心臓>でのように、立前は「自由」を御旗に掲げていながら、権力で人々を奴隷のように扱っている状況も描いています。
現代社会においても、奴隷制度そのものはないものの、格差の大きな社会になりつつあり、支配・被支配の問題は、生きていると言う事に対する問題提起のように感じられました。
「沈黙」と「自由」 ★★★★☆
「ギフト」「ヴォイス」の続き物という色合いはかなり薄いですが、紛れも無く「西のはて」の物語です。

自分でも、読んでいて顔が歪んでいくのがわかるくらい強烈な内容ですが、これで終わるのがもったいないし、まだまだ続きが読みたい、そんな作品です。