親の、子に対する期待と、それに苦悩する子の物語
★★★★☆
「ゲド戦記」で名高いル=グウィンによる、
久々のファンタジーシリーズ物です。
舞台は「高地」と呼ばれる地味に恵まれない地域で、
人々は血縁を中心とした一族ごとに生活しています。
「ギフト」というタイトルは、ここに暮らす人々に
受け継がれる特殊能力を指します。
息子に「ギフト」が現れないことを憤る父。
父の期待に応えられない自分に苦しむ息子。
一方で、自分のやりたいことを自由にやれない悩み。
その結果、起こったことは…。
苦悩する場面が多いなかで、ヒロインの芯の通った強さと
明るさが救いでしょうか。
読後感は決して悪くありません。
ファンタジーではありますが、現実の親子関係について
深く考えさせられる作品です。
私たちについての物語
★★★★★
まるで夢の中のように物語は進みます。
子供のころに、家族そろって旅行した、懐かしい高地のような場所が舞台です。
特殊な「ギフト」をもったひとびとが、登場人物です。
生き物でも、無生物でも、あるものを「ねじったり」「もどしたり」「呼んだり」することのできる能力。
なぜそのような「ギフト」が存在するのか、明確にはされません。
しかし、しだいに、心の中から、流れだしてくるものがあります。
それは、「ギフト」は、実はだれもが持っているものなのだという、畏怖を伴う感動です。
次の「ヴォイス」とともに、大変な傑作だと思います。
日本でいうと歌舞伎の世界?
★★★★★
血から血へと伝わっていく、不思議な力というか才能 ”ギフト” を持つ人々の話。主人公は、”目で殺す”ギフトをもつ一族の1人。強すぎるのか、コントロールができないのか、あるいは、ギフトなんて持っていないのか、と激しく悩み、自分の目を封印する。やがて、自分、父と向き合い、ギフトに関する苦悩を乗り越えていく。
なんだか、伝統芸能の歌舞伎とか、そんな世界と重ね合わせながら読んでいた。才能があるのか、ないのか、そんな”血筋”、”血脈”の世界を彷彿させた。思春期の苦悩というか、成長過程というか、そういうあたりの書き方が、この作者は本当にうまいと感じた。
ギフトに関しては、恩田陸の”常野物語”シリーズともなんだか似ている。。。
新シリーズも「心の物語」
★★★★☆
もうじき映画「ゲド戦記」が公開されるということで、今年久々に注目を浴びている作家ル=グウィンの新シリーズです。(「ゲド戦記」ほど哲学的ではないので読みやすいと思います。)
第二巻は「Voices’」、第三巻「Powers」とすでに三部作になることが発表されています。(もっとも、「ゲド戦記」も三部作の筈でした。)
「ギフト」は、タイトル通り「西の果て」での物語で、第一巻は「高地」と呼ばれる北東部の物語です。「ギフト」とは、天からの賜物で、「血」として同性の子供に引き継がれてゆきます。この「ギフト」が大きな力を持っているのが、「高地」の特徴です。「高地」は、いくつかの領国に分かれており、それぞれが「ギフト」を持ったブランターによって管理されています。
主人公のオレックは、その「ギフト」がなかなか表れずに苦悩し、コントロール出来ない「暴れギフト」であるということに悩みます。この物語は、オレックの「ギフト」を巡る心の物語です。「ギフト」が暴走しないように、四六時中目隠しをして暮らす中で、彼が何を考え、どんな結論を出すのかが、この物語の主題です。
このオレックの苦しみをいつも信じて見守ってくれている女性グライがいます。実は、この二人がこのシリーズの進行役のようです。あとがきには、脇役としてこの二人が紹介されています。この後のシリーズで、本当の主役が登場するのでしょうか?それとも、この第一巻も「ギフト」が主役と言えば言えます。そういうことでしょうか。いずれにしても、来年発刊の「Voices’」が待たれます。