1867年に生まれたライトは、シカゴにある、最初の作品となった自邸兼スタジオに20年ほど住んだ後、施主の夫人とともにヨーロッパへ逃避行をする。帰国後、帰る場所をなくしたライトは当時、彼の母が住んでいた長閑な風景が広がる農村へ移り、そこに自邸、さらに弟子たちも共同生活する「タリアセン」を建てる。しかし、召し使いの放火で建物は焼失し、夫人や子どもたちも巻き添えで亡くしてしまった。さらに建て替えたものさえも再び火災の魔の手に。現在残るものは、2度目の改築による「タリアセンIII」である。
本文はライト自身の言葉を多く引用したテキストで始まる。少年時代のおおらかな時を過ごした、輝く緑の丘。その地に再び帰り、自然の中で建築をつくりあげていく、みずみずしい感動が詩となる。ページをめくるとその自然の光景がまさに鮮やかな写真となり目を潤す。見開きごとにテキスト、写真が繰り返され、いつしか想像力は緑の大地を泳ぐ。やがてテキストだけとなるのだが、それは「火をやっつけろ!」と闘うくだりであり、この建物の、いやライト自身の苦難を知る。
そして「タリアセンIII」がカラーページを交え、堂々としたボリュームで展開する。それはそんな不幸な経緯があったことなど思いもしない、平和で温かな空気を感じさせる。ライトが設計した家具や照明器具、収集した日本や中国の美術品、そして深い緑と草原の光が、建築空間を彩っているさまをレンズは精緻に捉えている。
書棚に20年、30年と置いても古びない価値を感じさせる1冊である。(中谷俊治)
ライトは建築そのもの美しさだけでなく、建築と周囲の環境との一体化の重要性を唱えた人でしたので、タリアセンウェストもその拠点内に植えられた植物や作られた池、そしてアリゾナの空の青さと建築群が一体化した美しさを誇っています。中でも特筆すべきはその色のコントラストの鮮やかさです。寝食をともにしながら理想の建築を作るというライトの理念と色の鮮やかさが相まって、タリアセンウェストは、まさに理想郷とでも呼べる美しい所になっています。そんなタリアセンウェストの鮮やかな全貌を美しい写真を中心に紹介した本になっていますので、ライトファンには是非お奨めしたい本です。
自分の持つ建築技術を駆使して、これだけの自然を相手に格闘できる幸せが、ページごとにドーンと伝わってくる。洗練された室内装飾や建築は、90年の歳月を無視してしまう。一切古さを感じさせない。これだけの建築群を前にすれば、写真家も精神が研ぎ澄まされるに違いない。見事な建築と写真である。
タリアセンも、タリアセン・ウェストも、米国人にとっては特別の存在である。1991年、米国は、両者を世界遺産に推薦した(現在審議延期の扱いになっている)ことでもそれがよく分かる。
タリアセンは、落水荘の二年後に開始された一連の建築群である。ライトが弟子たちを引き連れて、理想郷を作り上げようとしていたような迫力と共に、ライトらしい自然との繊細な調和を感じる。
建築の巨人と、作品を通じて会話をしているような本である。
シリーズの今後の展開が楽しみだ。