理系一般にお勧めの良書
★★★★★
医療系大学生の立場から,つまり専門の技術者ではなく学部教養レベルの知識を持つ門外漢が趣味として本書を手に取ることを想定したレビューをする.
タイトルからは工学を学ぶ人向けの本であるイメージを受けるかもしれないが,ブルーバックスらしく(?),セミプロレベルまでの情報がコンパクトに説明されている良書である.
第一部「材科学の基礎」では鉄を利用したヒッタイトの歴史から,ラザフォード・ボーア・シュレディンガーらの話も登場する.また半導体はなぜ電気を通したり通さなかったりするのか?金属は曲げると強くなるのはなぜか?についてのミクロレベルでの説明があり,中学・高校の教育課程で結局「そういうものだから」としか教わってない知識を大きく深めさせてくれる.
第二部「社会基盤を作る材料」・第三部「エネルギー,環境,情報分野の基盤を作る材料」では主に材料そのものの話が展開され,例えば「不動態形成合金の分極曲線」や「バルク金属ガラスのシャルピー衝撃値」「Si多結晶のデンドライト利用キャスト成長法」「TIPTを用いたCVD法」等の話が出てくる.
要するに難しいのだが,言葉が難しいだけで数学のような難解さはそれほど無いように思われる.むしろ論理・論法は図を交えながら丁寧に説明されているため,頑張れば決して理解できないことはない.解説は工学系の著者ららしく,ミクロレベルの原理から,それが実際にはどうなるのかという実学的応用まで細大漏らさず書かれている.そこには良質のパズルを解くような味わいがある.
若干値は張るものの,工学部系に進むあるいは属している人にはぜひお勧めしたい本である.また医療関係者には人体と金属(無機物)の違いについて,そして共通する点について示唆に富む良著となるだろう.情報・生物学・化学系の学生にも普段使用する物の根源を知るという意味でお勧めしたい.