吉村さんの好奇心旺盛さに感銘受ける
★★★★★
尊厳死を選ばれた 吉村氏の著作。歴史小説の大家でもあり、非常に好奇心旺盛な方ではなかっだろうかと推測します。
この本は 「石鹸」「アイスクリーム」「胃カメラ」などそれぞれが誕生した経緯などを探る非常に楽しく好奇心を充たしてくれる作品でした。
色々面白いお話しがありました。
その中でも、「石鹸」の章の中にありました (株)花王の由来が 石鹸で顔を洗えるという意味で「顔」→「花王」になったとある。このようなことは、花王の職員でも分からない人がいるのではないのだろうかと読んでいて、吉村氏の好奇心を関心した。
最後に、吉村氏のご冥福を心よりお祈りもうしあげます。
「神は細部に宿る」
★★★★☆
新聞、ガス事業、消防救急、電信創業、近代街路樹、西洋理髪、塗装、ビール、製氷……。横浜で暮らしていると、至るところで「発祥の地」(碑になっていることが多い)に出くわす。皮肉屋の友人に言わせると「日本で初めて外国文化に侵略された土地」らしいが、僕は素直に感心することにしている。
本著は、吉村昭氏が小説執筆時に遭遇した「はじまりの物語」をコンパクトにまとめた一冊。「神は細部に宿る」じゃないけれど、小説の本筋は筋として、充実したディテールは、その時代が具体性を帯びて読者に迫る。あの時のあの話は、こういうことだったのか、と作品を思い起こしてしまう。
本著に紹介されている石鹸にせよスキーにせよ、革命的な政変、大きな戦争のように時代をがらりと変えたわけではない。が、今はあって当たり前、人びとの生活をじりじりと変えた事物を取り上げている点がいなせだ。けして派手ではないが存在感のある人物、事象を小説の題材にピックアップしてきた吉村氏の姿勢に通じるものがある。
事物を巡る歴史と回想のエッセイ集
★★★☆☆
吉村昭の小説を愛読していた時期がある。特に漂流もの、脱獄もの、動物ものを好んで読んだ。「漂流」「長英逃亡」「破獄」「破船」「羆嵐」などに見られる感情を抑えた描写は、それが抑制を効かせたものであるが故に一層の想像力をかき立てた。
その吉村昭の最新刊である。それは創刊された「ちくまプリマー新書」の中の一冊でもある。タイトルには『事物はじまりの物語』とあるが、実際は事物を巡る歴史と回想のエッセイ集である。「解剖」「スキー」「石鹸」「洋食」「アイスクリーム」「傘」「国旗」「幼稚園」「マッチ」「電話」「蚊帳・蚊取り線香」「胃カメラ」「万年筆」の13の小品から成る本書は、吉村昭の端正な筆遣いと該博な知識によって、読み応えのあるエッセイに仕上がっている。同時に吉村昭の史料発掘の裏話や歴史的な史料にも触れることができるから、吉村昭ファンにとってはちょっと得した気分になれるかもしれない。
だが濃密な中身を期待していた読者には、ちょっと食い足りないだろう。これは「ちくまプリマー新書」のコンセプトなのかもしれないが、質的には中途半端だと評価せざるをえない。画用紙のような厚手の紙を使って、大きな文字で書かれ、これでこの価格は、かなり割高な気がする。吉村昭という希有の作家に書いてもらうなら、それなりのステージを用意して欲しいというのが、一愛読者の偽らざる実感である。