歴史的な名演奏
★★★★★
1961年11月13日、パブロ・カザルスが、ケネディ大統領によってホワイトハウスに招かれた時の伝説の演奏です。ラストに演奏されたカザルス編曲のカタロニア民謡「鳥の歌」に大変感銘を受けました。カザルスの深い悲しみが伝わってくる感動の演奏です。
親友でピアノの大家であるホルショフスキーの前奏の後、チェロの音色が響きます。ライヴ録音ですし、カザルスのうなり声も入っていますので、通常のスタジオ録音とは全く雰囲気が異なる演奏です。
なんて悲しいチェロの響きなのでしょうか。元々モノラル録音ですので、音の状態はよくありません。84歳という年齢のせいなのでしょうか、音も少しかすれているように感じます。でも、それが一層すすり泣きのように聞えてきますので、カザルスの故郷に対する心情を表わしていると理解した方が良いのかもしれません。渾身の演奏といいますか、パッションがチェロからほとばしるような演奏でした。
この録音の10年後の1971年、国連において彼は感動的なスピーチを残しています。「これから短いカタルーニャの民謡《鳥の歌》を弾きます。私の故郷のカタルーニャでは、鳥たちは平和(ピース)、平和(ピース)、平和(ピース)!と鳴きながら飛んでいるのです」と書かれており、平和への切望を全世界に伝えたいという思いが込められています。
1939年5月、スペイン内戦がフランコ軍事政権の勝利に終ったため、カザルスはスペインから南フランスに亡命します。「自由な政府ができるまで、祖国に帰らない」と言ったカザルスは、第2次世界大戦後も二度とスペインには帰りませんでした。
平和主義者カザルスが、この「鳥の歌」の演奏に対して込められた思いは、とても複雑で重いものでした。20世紀を代表する名チェリストの魂の演奏がここに存在しています。