【復刻版】宇野浩二の「芥川龍之介(上)―思い出すままに」 (響林社文庫)
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【復刻版の原本】
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宇野浩二『芥川龍之介(上)』(文藝春秋新社 昭和30年10月20日発行)
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【解説】
芥川龍之介と交流のあった作家の宇野浩二が、芥川について思い出すことをあれこれ綴ったエッセイ集。上下二巻です。
以下、宇野浩二によるあとがきです。
「初めは唯『芥川龍之介』(思ひ出すままに)といふ題の示すとほり、ごく氣樂に書くつもりであった。そうすれば、このやうなボロを出さなくても、すんだかも知れなかつた。ところが、輕薄な私のわるい癖で、調子に乘って書いてゆくうちに、柄にもなく、つい、芥川の作品について、感想を述べた上に、批評めかしい事に手を出したために、その間に別の仕事を幾らかしたけれど、昭和二十六年の七月二十四日(実に芥川が世を去ってから二十四年目の祥月命日の日)から書き出し、やつと、昭和二十八年の二月十七日に書き上げたが、もとより、鈍才な私は、ずゐぶん手古摺(てこず)った。
しかし、私が手古摺るのは全く以て私の自業自得であるが、この本の、三分の二(五百七十枚)ぐらゐは「文學界」に連載し、三分の一(三百三十枚)ほどは書きおろしたので、そのために、三人の有能で有望な青年を、一人は九十六日も、一人は六十五日も、一人は百二十日も、(これは一日に二度も、)足をはこばせ、手古摺らせたのは、何とも申し分けのない事であった。(その三人とは、文藝春秋新社の、印南寛、大塚興、星野輝彦、の三人である。)
世に『鴑馬(どば)に鞭うつ』一といふ諺のやうなものがある。凡庸で野呂間なること鴑馬のごとぎ私は、この若くして俊邁なる三人に、かはりがはり、倦まず弛まず、鞭うたれたお蔭で、まがりなりに、このやうな本でも、書き上げられたのである。ここで、私は、口では云へないお禮を、この三人の方に、申し上げる。
最後に、わたくし事を云へば、私は、長い間、この長たらしい文章を書いてゐる間に、しばしば、あの、やさしかった、かなしかった、殊に友情の厚かった、友、芥川の面影が、目にうかび、涙ながれた事を、なつかしく、思ひ出す、さうして、思ひ出すと、思はず、口の中で、「ああ、芥川、」と、叫ぶのである、すると、いくら年をとっても感傷的なところの多分にある私は、目頭が痛くなるのを覺えるのである。それから、もう一つ、わたくし事を述べると、去年の十月十五日から今年の二月十七日まで、(その間に五日ぐらゐの旅行を二度したが、)丸百二十日ほど、殆んど朝から晩まで『芥川龍之介』で手古摺ったけれど、これは、ふだん懶け者の私には、大へん『勉強』になって、ありがたかった。 昭和二十八年二月吉日」