「社会」とのつながりという視点で
★★★★☆
最近ひきこもりや社会的差別などによって「社会」とのつながりが途切れ、そのことから凄惨な事件につながったというニュースを目にする。事件を起こすことで自分の存在に気づいてほしいという「メッセージ」を発しているのではないかという見解を聴いた時、人は「人」または「社会」とのつながりの中で生活しないことには生きていけないのだとつくづく思ってしまう。そこで、「社会」について知りたいと思ったことが、本書を読むきっかけとなった。
本書の第1〜3章では、大まかに言うと「社会」の概念がヨーロッパでどのように発生したのか、それが時代を経るごとにどのように変化し認識されていったのかが記されている。後半の第4〜6章では、「社会」から排除されたり、または最初はつながっていなかった「社会」とどのようにして結ばれていったのかが、フランスや日本の水俣病という事例を通して示されている。
特に印象に残ったのが、水俣病の事例である。周知のように、この病気の原因は、水銀を触媒とするアセトアルデヒドの製造で生じた工場廃液を未処理のまま海に排出したことからである。しかし、企業の企てによって、その現状は世間に知られることなく長く閉ざされたままになっていた。その状況を打破したのが、孤立した患者たちを支援する「市民会議」などの活動によって世論に訴えかけたことからである。
本書は、あくまで「社会とは何か」を明らかにすることを目的として書かれたものであるが、「社会」とのつながりという視点でもって読むと考えさせられた。
民族学者の面目躍如。論旨明確,実践への接続
★★★★★
何気なく使っているが,改めて考えると何を指しているのかよくわからない「社会」。著者はこの本で,社会で何であるかを明らかにし,さらに社会へのアプローチを提唱します。
まず,17世紀の絶対王権に代わり国家を説明するために発明された「社会」概念が,地位向上したブルジョアジーの発言の場「公共圏」の成立とともに実体化され,国家による国民統治の技術として統計学,経済学が整備されることにより,社会学として成立していく過程を明らかにします。
次に所与のシステムとして社会を扱う現状の社会学に対し,社会をプロセスとして扱う方法を,社会と文化,社会と共同体という今日的課題への具体的な取り組みを記述することで示します。
理論の面がわかりやすく説明されており,さらに後半に欧州の移民問題,日本の水俣病の問題が具体的に語られ,素人にもよくわかって面白かったです。
これまで静的なシステムとして扱われていた社会を,自律的に変動するダイナミックシステム(プロセス)として捉えるという主張は,近年の社会をネットワークとして捉える自然科学的アプローチ(「複雑ネットワーク」とは何,ソーシャルブレインズ入門)とベクトルが一致しており,今後の学際的発展も期待できるのではないでしょうか。
しかしながら,5章で扱われる,共同体(コミュニティ)と公共圏の一体化による社会への接続という方法論は,公共圏を成り立たせるために,水俣での「サークル村」の主催者谷川雁のような「私」を捨てた求心力のある個人が前提となり,一般的方法論として成立しないのではないでしょうか(公共圏の詳細は,人間の条件 (ちくま学芸文庫))。
後半が面白い本
★★★★★
この本を読んで、竹沢さんという人はつくづくまじめな人なんだなあと思いました。
前半部、社会契約論とか懐かしい(?)フランスの社会学者の名前が出てきてちょっとまいったのですが、
後半部、現代フランスにおける移民2世、戦後日本における水俣病患者たちを例にとり、
「社会」の概念を一気に深く掘り下げて書いていらっしゃいます。
新書ではひさびさに手応えのある本でした。
社会について考え直す
★★★★★
社会とは何かを丁寧に考え直している書である。研究史から丹念に述べられているので、とても分かりやすい。
著者は社会は均質的なシステムではないし、コミュニティや公共圏、社会運動体などと対立するものでもないとする。
そして、社会の内部に多様で異質な要素を抱える事が、社会に活力を与えるとしている。
つまり、社会は均質なシステムではなく、多様性からなるプロセスであるとする。
そして、現代においては、社会を多様性と複数性からなるものとして、再想像、再創造することが必要であると述べる。
本書では諸外国における外国人労働者の受け入れが、様々な問題を惹き起こした事が述べられている。
しかし著者は、社会にとって異質な移民や外国人労働者等を、それが惹き起こすであろう問題ごと、社会に活力を与えるものとして肯定的に、捉えているように思う。
著者の主張の方向性には同意できる。しかし私には異質なものを受け入れる事はまだしも、異質なものが惹き起こすであろう事に対しては、懸念や恐怖の方が強い。
社会のあり方について、考えさせられた。
☆共生社会の構築に向けた真摯な提言☆
★★★★★
本書は、社会人類学を専門とし、
現在は国立民族博物館教授である著者が、
「社会」のあるべき姿を考察する著作です
筆者は、ホッブス、ディドロ、アダム・スミス、デュルケーム、コントなど
近代社会科学の基礎を作った思想家たちを概観したうえで、
今日における社会統合の困難の一として、フランスにおける移民問題を紹介。
そして、水俣での市民運動などをてがかりに
上述の社会科学が前提としてきた、
閉鎖的で均質な、システムとしての社会像を批判し
多様性と複数性からなるプロセスとしての社会像の構築を提唱します。
近代の創生期において、複数性に注目したスピノザへの注目や
ハーバマスの公共圏と谷川雁の「サークル村」の類似性の指摘など、
興味深い記述も多くあります。
とりわけ、印象的だったのは、
アルジェリア出身で、マルセイユでラジオ局を経営する
社会活動家S・B氏のコスモポリタンとしての生き方です。
外国人参政権、多文化主義のオーストラリアで起きたインド人留学生襲撃など、
社会のあり方を考えさせられる話題が多い今日において
われわれの「社会観」に再考を促し、よりよい社会の構築に向けた道筋を示す本書。
社会科学に興味がある方に限らず、多くの方にオススメしたい著作です。