音楽10年のテキストとして
★★★★☆
あちこちの音楽雑誌で特集されていたゼロ年代の音楽というテーマ。私自身は1978年生まれという事もありゼロ年代は就職〜三十代へ突入という時間でした。私はゼロ年代という言葉自体が前からピンとこなかったので本書を読んでうっすらとこの10年の音楽の空気を感じる事が出来ました。内容的にはやっぱり日本のヒップホップの隆盛を凄く感じましたがどうしても時代の空気から逃げられない事に正直やや憂うつさが見られます。他の時代と比較すると面白いとは思いますがこれだけヒップホップが日本に定着するとは思わなかったし 働いているサラリーマンにはうけとりづらい音楽かなとは思うけど10年を総括する本としては参考として興味深いんではないでしょうか。洋楽ロック オアシスやレッチリ また70 80年代ロックをここ10年聴いていた私としてはある意味本書は浦島太郎的な体験で良かったです。(なぜか邦楽はさけていた私の10年間)ゼロ年代の音楽は私には無かったにも等しいんだなという事にも気づかされゼロ年代という言葉がしっくりこない謎も氷解された気がしました。今は落ち着きましてボニーピンクやUA 曽我部さんなんかをたまに聴いております。
現状を知り得るテキストとしては、即効性の高い一冊
★★★☆☆
本書の前書きに「企画されたものではなく、偶発的なものだ」と書いてあるように、
野田努をはじめとしたライターが、ゼロ年代が終わるまさに今、感じていることを纏めた本であるため、
一貫性があるとは言い辛いし、賞味期限が長いタイプの本ではない。
雑誌の特集のような印象で読んで頂くのが、一番合っているのかもしれない。
本書に漂う閉塞感は、ミュージシャンとの対談を行わずに、
ディスクレビューが大半を占めているということに尽きる。
本書でも取り上げられている前野健太やS.L.A.C.K.などを招いていれば、
次の世代に何かを提示する事は出来たであろうし、
少なくとも自分は彼らの今の声を聞いてみたかった。
一方で高く評価出来るのは、ジャパニーズヒップホップへの言及が比較的多いという点。
この手のリーディングマガジンは広義でのロックとダンスミュージックで総括してしまう感があるので、
ゼロ年代後半になって更に盛り上がってきた本ジャンルを討論しているのは興味深い。
未来を描いた本ではないと言う事を頭に置きつつ(これは音楽が音楽である以上当然のことなのだが)
読み進めていけば、現状分析としては優れている書であると感じた。
壊れた十年
★★★★☆
野田努や三田格ら、休刊した『スタジオ・ヴォイス』及び『リミクス』周辺で活躍したライター陣によるゼロ年代の総括本。
ディケードを俯瞰する批評というよりは、各ライターの体験や記憶をまとめた証言集といった印象で、
断片化された10年、副題によれば壊れた10年を、いわゆるカルスタ系の音楽評論で振り返る。
野田努が「嫌いな人からすれば死ぬほど嫌いだろう」とかつて自覚していたように、
この手の音楽語りに直感的に馴染めない人がいるのも無理はない。
例えばある場所からは、「新聞斜め読み程度の社会認識が痛々しい」という声も出ている。
しかし、国内外の知られざるアンダーグラウンドもしくはインディペンデント・ミュージックの強気な紹介に関しては、
やはり一人の音楽好きとして刺激的に読める。
突貫工事による編集の為、事務的なミスを指摘すればキリがないが、
ゼロ年代という「何もなかった時代、名前さえない時代」に添えられた言葉からは、
この10年の輪郭だけでも描こうという諦念交じりの情熱が感じられてよい。
また巻末には、『音楽図鑑』の名の下に150枚のアルバムがリストアップされ、的確に批評されている。
それらは全くと言っていいほどバラバラだけども、ルーティンに欧米誌のゼロ年代リストを焼き直しする
あの辺の雑誌よりは遥かに楽しめるし・・・
そう、そして何より、野田努がライターを辞めずに済んだのだから!!
音楽を顕示する欲が読みたい
★☆☆☆☆
なぜか、この手の本は、村社会での自己顕示になってしまう。
細分化した音楽には、それぞれの村ができてしまっている。
それを、後付けで、分析する。
これらの文章を読んで、音に向かう気持ちは喚起されない。
残念ながら。
批評としての独立的な意義も感じない。
音楽の提示より、自己顕示臭が漂う。