渡り鳥ということばの奥には
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日本という国で暮らしていると「移民」という言葉に肌で触れる機会は少ない。わたしは20代の多くの歳月を外国で暮らしたり外国人と過ごすことが多かった。そのなかで、経済的な事情からアメリカにわたり、労働者としてけしてよい環境ではなかったけれど労働に従事し、司法を欺くような形で現地人と結婚して労働ヴィザを取得した人達の暮らしぶりや、なぜ、そのような「行動」をしなければならなかったのか、そうした人々の悲喜こもごもに接することもあったし、EU加盟国にEUから承認されたポーランド人が英国に「労働者」として出稼ぎに来る姿を垣間見ることも多かった。
こうした体験を踏まえてこの本を読むとほんとうにおもしろい。日本人は明治以降じつに多くの国に渡っている。ブラジル、キューバ、アメリカ、そして忘れることのできない満州、現代の人たちは満蒙開拓団という言葉を聞いてどう思うだろうか。経済繁栄を終え、その残光のなかで「自分探し」をするひとびとを傍観していると、「食べるために生きる」という言葉を反芻しながら船で世界に渡った先達のことを想起させる素晴らしい一冊ではあるまいか。