終盤では厳しく理想主義的な労働第一の時代の後に来る芸術や科学の開花が描かれる。遺伝学の発達や生態学的に裏付けられた社会心理学の必要性を描いているところは流石は生物学者である。また全世界共通語の確立や火山力を利用した地球改造、数百万単位の人員を擁する百科全書組織等、スケールの大きな話も出て来て、正に「予言書」に相応しい風格を備えている。良くも悪くも、科学とその教育とに未来を託したウェルズの特色が存分に発揮された作品と言えるだろう。
因みにウェルズは1934年から自らこれを脚本化して"Things To Come"(1936)(『来るべき世界』)と云う映画を作り上げたが、映画史に残るこの傑作も、思想的な点に於ては明らかに失敗作だった。文字や言葉によってしか表現出来ないものを無理矢理映像に押し込めようとした結果なのだが、ウェルズの真意を確かめたい者はやはり映画ではなく原作の方を精読してみるべきだろう。