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殉教 (新潮文庫)

価格: ¥620
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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すごいな。狂ってる ★★★★★
『獅子』を読んだとき、「すごいな、この人、狂ってるな」と思った。だけどなんと美しく聡明な狂い方だ。夫婦の狂った会話にしびれる。梨を食べながら、というセンスにも参ってしまう。
『殉教』は、一瞬最後の意味がよくわからなかった。こういう意味にも取れるし、ああも取れる。いや、こうなったんだろうか、と三通りほど可能性を探ってみたが、結局ひとつしかあり得ないと悟った。怖い話だ。その晩は寝つけなかった。
それにしても、なんて豊富な語彙。この本は、漢字とボキャブラリーの勉強に使おうと思う。
本書は蜜の味の毒薬です ★★★★★
『殉教』です。
自決直前に編まれた三島由紀夫の自選短編集です。
軽王子と衣通姫
殉教
獅子
毒薬の社会的効用について
急停車
スタア
三熊野詣
孔雀
仲間
上記9作を収録しています。巻末の解説で、各作品の短い脚注があります。
貴種流離、詩人の殉教、神的な女、詩人の俗化、反時代的孤独、現代的貴種流離、老人の異類、美少年の孤立、化物の異類。

異類を描いた本作の中でも三島らしさがほとばしっているのが「軽王子と衣通姫」でしょうか。
貴種流離譚。タイトルを見ただけでも想定できますが。
文章表現の美しさは言わずもがなですが、近親姦の男女が愛し合って、愛し過ぎて……という貴種であるが故の苦悩の過程が、ファンタスティックかつリアルに描写されていて圧倒されます。
アイテムの青玉の首飾の使い方が印象的で、物語としても秀逸です。
死を持って全うするという虚構 ★★★★★
どの短編も予め主題が与えられ、それにそって話が展開していくために、次第にサスペンスが高まっていく構成である。したがって構成は単純であり、それ自体に驚きはないのだが、やはり作者独特の感性と思想、そしてなにより繊細な性や風景の描写とによって、内容はどれも密度が濃い。ただし、最後の「仲間」だけは、主題が与えられておらず他の作品と違って異彩を放っている。

美しいものにしろ、聖なるものにしろ、それは絶対的なものではない。例えば「スタア」では主人公のスター性が「老い」によって失われてしまうことを示唆している。また、「軽王子と衣通姫」では、愛し過ぎるがゆえにその愛に満足できず、いつまでも達成することのできない愛の絶対性に苦悩する主人公が描かれている。そこで、美しいもの、聖なるものとして残す手段として「死」の考えが生まれる。それは「死」を一つの目的、達成とする武士の死生観とは似つかぬものだが、死ぬことに聖なる価値を見出すという点において武士道に重なる部分がある。

「死」を持って美しさや聖を全うすることは、それが虚構であることを含意する。しかし、それは意に介されず、むしろ虚構は徹底的に塗り固められている。そうすることによって虚構に価値のあることを作者は暗示しているのかもしれない。
三島のエッセンスが濃縮された作品集 ★★★★★
三島の短篇集はそれぞれ傑作と凡作、つまり「当たり」と「はずれ」が混交しているのが特徴ですが、この短篇集だけは例外で、ほぼ全編、傑作と言っても過言ではない珠玉の作品集です。
三島の作品では「春の雪」が「美しさ」という点で評価が高いのですが、この作品集の中の「軽王子と衣通姫」の方が、短く知名度が低いながらも、その美が圧縮されている点では格段上の出来映えだと思いました。
「死」と「恍惚」が表裏一体の美しさは読んでいて震え上がるほどです。日本文学史上でも、この作品は優に十指に入る傑作短編ではないかと思います。
「スタア」という短編も素晴らしく、ものすごく巧みで、現代の俗っぽさの象徴たる「スター」を通じて、作者一生のテーマである「美」や「自意識」の問題が非常に無駄なく、圧縮された作品です。
一つ一つあげればキリがありませんが、その他にも良作、佳作の目白押しで、これ一冊を読めば三島の文学理念に真っ正面から触れることが出来るという意味でもおすすめです。是非、読むべし。
「三熊野詣」は有名だね。だけど、 ★★★★★
今更に三島について喋々するのも愚かしい。これ皆、珠玉。これに尽きる。
だが敢えて私がものすのは、私の好きな同収録「軽皇子と衣通姫」の美しさを主張したいがため、である。

たとえば、ロミオとジュリエットは結ばれぬまま、悲劇的結末を迎える運命を辿った。しかし、軽皇子と衣通姫は結ばれた。……ここに詩的真髄が垣間見える。即ち、愛すれば愛するほど、相手を想えば想うほどに、ネガティブしか生まぬ在り方というものをこの作品は遺憾なく示していると思うのである。自分が十全でないこと、相手に何を与えられるというのか、そういうことに思いを馳せる人ことができる人ならばきっと、この悲劇性に共感できるのではと思う。自分は、これ程哀しく美しい物語を読んだことがない。

北欧の哲学者キルケゴールが、恋の「亡者仲間」と呼ぶ一連に、自分とこれに共感する方々は含まれるであろう。だが無限の哀しみを得ることが、得ないことに劣るものか。自縛の哀しさに溺れる、その後は各々次第。