たとえば、ロミオとジュリエットは結ばれぬまま、悲劇的結末を迎える運命を辿った。しかし、軽皇子と衣通姫は結ばれた。……ここに詩的真髄が垣間見える。即ち、愛すれば愛するほど、相手を想えば想うほどに、ネガティブしか生まぬ在り方というものをこの作品は遺憾なく示していると思うのである。自分が十全でないこと、相手に何を与えられるというのか、そういうことに思いを馳せる人ことができる人ならばきっと、この悲劇性に共感できるのではと思う。自分は、これ程哀しく美しい物語を読んだことがない。
北欧の哲学者キルケゴールが、恋の「亡者仲間」と呼ぶ一連に、自分とこれに共感する方々は含まれるであろう。だが無限の哀しみを得ることが、得ないことに劣るものか。自縛の哀しさに溺れる、その後は各々次第。